ケイケイの映画日記
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2009年08月14日(金) 「サマーウォーズ」




素晴らしい!観た映画友達の皆さんが、こぞって絶賛だったので、観てきました。昔ながらの大家族の絆を軸にしながら、バーチャルな仮想世界をふんだんに織り込んで心躍らせなてくれます。温故知新的な教訓も盛り込んでいますが、新しい家族の価値観もきちんと感じられ、古くて新しい、とっても素敵な作品です。

仮想世界「OZ」が、現実社会にも深く関わっている近未来が舞台。高校二年の健二(声・神木龍之介)は、優しく内気な少年ですが、天才的な数学の能力を持ち、残念ながら数学オリンピックも後一歩の所で及びませんでした。夏休み、友人の佐久間とともに、OZのメンテナンスのアルバイトをしています。そこへ憧れの夏希(声・桜庭ななみ)からアルバイトに誘われ、彼女の田舎である長野県の上田市について行きます。しかしそのアルバイトというのが、彼女の曾祖母・栄(富士純子)の誕生日に合わせ、夏希の婚約者になり済まして欲しいというもの。一度は断る健二ですが、何だかんだと丸めこまれ、彼女の大家族に紹介される羽目に。戸惑う中、寝付けなかった健二は、OZから送られてきたパスワードを解いて、送信します。翌朝、日本中の日常は大混乱していました。

アニメは実写版以上に登場人物のキャラ立ちが大切ですが、格々しっかり描きこまれています。特に夏希の一族郎党など、総勢30人近くはいるでしょうか?これが赤ちゃんから90歳まで、実にわかり易く描かれており、それぞれのキャラにしっかり息吹が吹き込まれており、その見事さにまず感心します。

文科系ならぬ理数系男子の健二。思わぬ濡れ衣をかけられた時などの、気弱で優しく、大人しい様子は全編変わりません。しかし陣内家の人々の濃密な家族愛に触れ合う内に芽生え始めた、大切な人達を守りたいと言う健二の「男気」は、負けが濃厚なここ一番の大勝負での「まだ負けてません!」という言葉で、きちんと実のったのがわかるのです。

「僕、一人っ子で父は単身赴任、母も働いていて、ご飯はいつも一人です。こんなにたくさんの家族でご飯食べる事なかったんで、とても嬉しかったです」という健二の言葉は、こんな時に礼を言ってる場合かい!と言う場面で、出てきます。しかし言わずにおられない健二の気持は、だからこそ観客にも深く届くのです。そしてその言葉をじっと聞いていた栄に、一番届くのです。

大混乱の元は、人工知能の「ラブマシーン」がOZに入り込んだせい。栄の夫の隠し子で、幼い時に栄に引き取られ分け隔てなく育てられた侘助。頭脳明晰ではあるけれど、長い間放蕩していて、家族からはみ出した侘助は、この事件に関係しています。10年ぶりに侘助が現れた時、毒づく彼に栄がかけた言葉は、「ご飯食べるかい?」でした。これが愛情でなくてなんでしょう。

侘助が事件に関係していると知るや、彼を槍で追いかけ回し、「身内の不始末は、みんなでカタをつけるんだよ!」と、家族を奮い立たせる栄。他の家族には血の繋がりがある侘助ですが、たった独り、栄にはないのです。妾腹の子の不始末を「身内」と言いきった栄。身内だからこそ、腹が立つのです。その言葉に栄の器の大きさと、侘助への深い愛情が忍ばれました。

侘助とて、そんな栄の愛情に応えたくて、空回りしていたのでしょう。大金を持ちかえり、名を上げる事で、栄に報いたかったのですね。「ばあちゃんなら、俺の気持ちをわかってくれるだろう!」という、切々とした彼の言葉も胸に響きました。栄が大事にしてくれればくれるほど、妾の子として肩身の狭い思いをしてきたのでしょうね。

「うちはばあちゃんの言う事を守って、ずっとやってきた。だからばあちゃんの言う事は絶対なの」という、陣内家長女の言葉。さらっと聞き流す人もいるでしょうが、実は大変深い意味があります。家族の意見がバラバラの時、絶対服従と言うと聞こえが悪いですが、そんな人が必要でしょう?言いたい事も腹膨るるほどではないのなら、ぐっと堪えて家長の意に沿うように家族が協力すること。それは家族の方向を定めるだけではなく、家長を育てると言う事にも、繋がるのではないでしょうか?

「ご飯はみんなで食べる事。家族は一人にしないこと。お金は残っちゃいないが、私はみんな囲まれたお陰で、幸せな人生だ。」栄の言葉です。健二の言葉と繋がります。何度も何度も書いていますが、これは私が27年の主婦生活で、正に実践してきたことでもあります。出来るだけ手作りの食事を作り、お腹を空かせない。決して家族を個食にはしないこと。夫や子供達が塾やクラブや仕事で遅くなる時も、食べずとも必ず傍で話をしながら、食卓をいっしょに囲みました。家族が家に帰る時間には帰宅し、出来るだけ「お帰り」と言って迎えること。もちろん仕事やどうしてもという時は、パスしましたが、家族の誰かが家にいるとき、必ず私もいるようにしたものです。

言いかえれば、私は「これしか」していません。仕事で疲れてストレスがたまっているのに、休みも家庭・家庭・家庭。でも自分のストレスより、家族の誰かが寂しい思いをしないか、その方が気がかりなのです。多くの主婦が私と同じ思いで生きているはずです。

しかし雑誌などを読むと、現代の主婦はあれもこれも我慢せず、したいことは謳歌してストレスを溜めない方が、家族も幸せなんだとか。私の誤読かも知れませんが、本当にそうなのかな?

自分のために妻が母親が、常に気を配っていてくれる。いつも家族の息遣いが感じられる空間。そういう家庭に育った子は、仮に道を踏み外しそうになった時、自分が曲れば、親が悲しむ。家族に迷惑がかかる。そう思い踏みとどまるんじゃないでしょうか?そういう思いは、栄婆ちゃんの言葉通りの暮らしをすれば、肌に髪に沁み込んでいくものじゃないかと、私は思います。

一見古いしきたりと価値観で統一されているような陣内家ですが、孫やひ孫は、外孫内孫関係無く、大人は皆で愛情を注ぎます。バツイチでも大手を振って参加できる、風通しの良い関係です。そして日蔭者のはずの侘助を決して忘れない心。これは当主である栄が、良き古い血は残し、新しい良き血はどんどん取り入れる、開放的で大陸的な思考の人であることからでしょう。ねっ、古くて新しいでしょう?

「古くて新しい」は、OZでの格闘ゲームを「スポーツだと」と言う、元いじめられっ子のカズマと、カズマと又いとこで、高校野球で頑張る了平の姿を交互に移すことで表現されています。どちらが良い・正しいというのではなく、両方肯定しているように、私は感じました。そしてカズマを強い男にするため協力したのが、祖父である万作というのが、とっても良いです。父親が仕事で忙しいなら、他の身内が代わって指南したって、全然OKですよね。ただの祖父と孫の微笑ましい交流だけではなく、忙しい父親を否定しない様子も、好感が持てました。

そして決戦のゲーム。夏希を軸として始まるゲームの壮大さは圧巻です。いやあのゲームで、あんな迫力あるシーンが作れるなんて、思いませんでした。そして一人はみんなのために、みんなは一人のために一致団結する様子の盛り上げ方は、半端無い感動を呼びます。それがべらぼうな強さを誇る人工知能にはない、人間らしい心というものです。人間とは得てして予測不能な力を発揮するものですから。

こんな地球規模の危機に、どうして政府は動かないのかしら?とも、ちと感じましたが、人が初めて接する社会は家庭です。その家庭で社会を表現したんだと、納得しています。

価値観が様々になり、それが認められつつある現代社会ですが、観客に熱狂的に受け入れられている様子は、やはり家族の強い絆とは、未来永劫普遍的な価値観なのでしょう。しかし古いだけじゃだめなんだぞと、新しい価値観も認めている所に、観客は魅かれるのでしょう。それが成長や進歩だということですね。

全部観た訳じゃないけれど、この夏一番のお薦め作です。いっぱい泣いて笑って、元気をもらって来て下さい。



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