ケイケイの映画日記
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2009年08月03日(月) 「サンシャイン・クリーニング」




わぁ〜、良かった良かった!大好きな「リトル・ミス・サンシャイン」のチームが再び製作した、負け犬(この言い方は好きじゃないが)応援歌ムービー。所々繋がりが悪かったり、もう少し突っ込んで描いて欲しかった箇所もありますが、姉妹と父親の心情がしみじみこちらに伝わり、この作品も大好きな作品になりました。

ローズ(エイミー・アダムス)は、高校時代はチアリーダーで、学校の花形的存在でしたが、今は学校で問題ばかり起こす息子オスカー(ジェイソン・スペヴァック)を抱えたシングルマザーとして、ハウスキーピングの仕事をしています。妹のノラ(エミリー・ブラント)はどんな仕事をしても上手くいかず、未だに父親(アラン・アーキン)と暮らしています。この父親も、怪しげな品物で一攫千金を狙うダメ父ちゃん。お金が必要となったローズは、学校時代の恋人で今は不倫相手であるマック(スティーブ・ザーン)から、事件の後や訳ありの場所での清掃業はお金になると持ちかけられ、ノラを誘って仕事を始めます。

アダムスもブラントも美人なのに、世間に置き去りにされた負け犬姉妹って・・・、と思いましたが、そこは二人とも演技派。ちゃんと存在感も華も残して、運に恵まれない垢ぬけない姉妹を上手に演じていました。

特に私が感心したのはブラント。どうしてこの子は美人なのに、いつもゴス風のアイメイクなのかなぁと思っていましたが、今回はそれが役柄に上手くマッチ。ノラの内面の寂しさ・か弱さ、繊細さを隠し、強気に見せるための「仮面」のように感じるのです。亡くなった女性の遺品の写真から、その人には長年離れ離れの娘がいることを知り、どうしても娘に母親が亡くなったことを知らせたいノラ。

ノラの拘りは、彼女が妹だからでしょう。二人の母親は姉妹が幼い時に自殺。私が娘だったら知りたいと言うノラ。汚い部屋を掃除しながら、私たちのママは、こんなだらしない人ではなかったと、きっぱり言うローズ。さりげないけど、ここに下の子の哀しさを感じさせます。下の子の方が親の記憶が薄く、思い出も少なく、親との時間も短いのです。自分の哀しさを、写真の娘に投影しているのです。幼い子がするように、いつまでも母の数少ない思い出を詰めた箱をながめるノラの様子に、思わず涙が出ました。私は私で、ノラの母親のような気になっているのです。

華やかだった高校時代から雲泥の差のローズ。どこでどう間違ったのか、彼女にもわからないのでしょう。それでも一生懸命、姉特有の生真面目さで、ささやかながらも諦めずにもがくローズ。私があぁいいお母さんだと感激したのは、奇矯な行動に出る息子オスカーを叱ることなく、守りに出たこと。これは出来そうで出来ないんだな。普通は「どうしてあんたは、普通の事が出来ないの?ママがこんなに頑張っているのに、少しはそれをわかってよ!」となるはず。

問題を抱えた子を一人で育てる心細さは、いかばかりかと思うのです。不倫する女なんて、私は大嫌いなのですが、ローズはこうやってどこかで自分を慰め、不倫相手マックの妻ヘザー(自分からマックを奪った同級生)に復讐して、自分の気持ちを持ちこたえているのでしょう。鏡に向かって「私は美しい、私は強い」とイメージトレーニングをするも、「私は遊ばれるだけの女。結婚やデートの相手ではないの」と泣き笑いするローズを観て、またまた彼女の母親になってしまい、胸が痛むのです。

早くに母を、それも自殺で亡くなっているというトラウマが、彼女たちの人生に影を落としているのは明らかです。そういう娘たちの演出は柔らかで繊細で、とっても長けているのに、何故かパパは妻に自殺されたのに、全く葛藤の場面がなし。写真の娘リンとノラのエピソードも、ノラ自身はとても浮き彫りになりますが、あの終わり方ではリンが可哀想です。もう少し突っ込んで描いて欲しかったなぁ。ローズと関わるウィンストンとのエピソードも、彼が片腕がない障害者、でもきちんと自立して生きている人だ、という側面を、映画の中では生かせていません。マックとの不倫に悩み、ウィンストンに心惹かれるローズ、という図式を挿入しても良かったかと思います。

と、このようにいささか物足らない部分も多々あったのですが、この姉妹を抱きしめたくて堪らなくなった私の気持ちと、ラストの山師のパパの素晴らしい父親ぶりに免じて、目をつぶりたいと思います。それほどこの姉妹は、私にはとても愛しかったです。

一生懸命頑張って、自分の限界を越えようとした彼女たち。傍目には変わらない現況ですが、紆余曲折を経て、負けない心を得たようです。それが大事なんだよ。だって「リトル・ミス・サンシャイン」のおじいちゃんが言ってたでしょ?「負け犬とは、勝つことをあきらめた者のことだ」ってね。アラン・アーキンの再度の起用のカギは、ここにあったのかも。


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