ケイケイの映画日記
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2009年04月21日(火) 「スラムドッグ$ミリオネア」




怒涛の10日間で6本観る!の、スタート作品。いや転職前はこれくらいの予定は、年に何回か組んでたんですが、転職してから仕事が大変で、めっきり本数が減ってしまってね。しかし映画ファン必見作品が並ぶ18日からの公開ラッシュ、私も乗り遅れてなるものか。昨日はなんばパークスの平日千円クーポン券を使って鑑賞。月曜日の3時40分からの上映なのに、場内はほぼ満席。オスカー主要8部門取ったのも頷ける出来で、私がこの10年で一番好きな「シティ・オブ・ゴッド」を彷彿させる内容でしたが、こちらは核に据えたのが「純愛」と「運命」ということで、やや通俗的で甘やかなのですが、そのお陰で万人の心に響く作品となっています。舞台はインドで、監督はイギリスのダニー・ボイル。久々にオスカー作品賞にふさわしい作品だと思います。

インドの人気テレビ番組の「クイズ$ミリオネア」に、ムンバイから来たスラム育ちの18歳の青年ジャマール(デヴ・パテル)が出場します。次々難問をクリアする彼。しかし司会者のブレーム(アニル・カプール)は、ジャマールが詐欺をしていると警察に通報したため、ジャマールは警察から拷問まがいの尋問にかけられることに。しかし、警部(イルファン・カーン)の取りなしで穏やかな尋問に場を移された時、ジャマールが何故回答出来たのかがわかります。それは孤児として壮絶な育ち方をした彼の、生きる上で得た答えだったのです。

全編躍動感と馳走感たっぷり!幼い日のジャマールと兄サリーム(成人後マドゥム・ミッタル)の悪ガキ時代の、警官をからかい、裸足でスラムを縦横無尽にかけ廻る様子を移しながら、不衛生で貧しくゴミゴミしたムンバイのスラムを余すところなく映すのですが、汚さよりも旺盛な生命力を感じさせます。

それがイスラム教徒が襲われて、彼らの母が亡くなると、孤児となった兄弟二人だけの生活が始まります。寄り添って生きる二人の前に現れたのは、可愛い少女ラティカ(成人後フリーダ・ビント)。反対する兄を説得し、ラティカを仲間に入れるジャマール。しかし彼らは、孤児を集めて物乞いさせて金を巻き上げる、裏社会の大人たちに捕らわれます。

孤児を集めて虐待し働かせるやり方は、日本に住む者には壮絶です。しかしインドにはご存じのようにカースト制度があり、以前インドを旅した人の紀行を読んだ時、物乞いのカーストに生まれた人は、その子供を物乞いのプロのするため、わざと子供の時に親自らの手で、障害者にする場合もあるとか。しかし親がすればやるせないことも、子供を金儲けの道具の一つとしてしか見ない者がすれば、それは猛烈な怒りに変わります。

ストリートチルドレンになってからの彼らの様子に、涙が出て止まらない私。可哀想だからじゃないの。かっぱらいや詐欺、大人をだまくらかして生きる彼らの、逞しい生命力が、もうまぶしくて。一種爽快なのです。もちろんやっていることがいけないのは、百も承知。しかしこの「生きたい」と思うものすごいパワーは、私を含む人生に疲れ気味の老若男女は、ストレートに受け取ってもいいんじゃないかと思います。

幼い頃から機転が効き向こう気が強く、その知恵が悪に染まろうだろうとは予測出来るサリーム。賢いけれど融通が利かず、「あきらめない」純粋な心を持ち続ける弟ジャマールを守って生きるのには、兄としての苦労があったはずです。幼い頃から少年時代を通じて、ずっとその事には気づかず、兄に対しては鈍感だった弟。弟の心には、いつもいつもラティカの存在がありました。兄として嫉妬する心があって当然です。それが後年、弟を裏切る兄となり、ラティカに対しての慈悲のない仕うちになったように思うのです。

しかしそんな兄なのに、怒っても裏切られてもまだ信じるジャマール。断ち切れない兄弟の血と、世界で二人だけで生きて来た、彼らの過去がそうさせるのでしょう。最後に見せる兄らしいサリームの行いに、兄弟というものの深い絆と縁を感じます。

次々回答していくジャマールを認めない、司会者のブレーム。私が素直にその若さの輝きを羨ましく思ったのに、彼には鬱陶しくて仕方無かったのですね。ブレームは旧態勢の古い概念を表しているんじゃないでしょうか?教育もろくすっぽ受けていない、スラムの野良犬ごときが、全問正解出来るわけがない。自分のような選ばれし者だけが答えられるべきなのだと。しかし一夜にして街中のヒーローのように、庶民の期待を一身に浴びるジャマールこそ、インドの進むべき新しい姿だと言いたいのではないでしょうか?

仰天の姿で映画スターからサインをもらう幼い頃のジャマールの姿や、エンドロールの描き方に、インドというより、ボリウッドに対して敬意を表する監督の心が感じられて、好印象です。

脚本の上手さや演出の巧みさで新鮮さは出しているものの、貧しく底辺の若者が、一生懸命頑張って幸せを掴むと言う、ありふれた物語です。彼を支えたのは、「あきらめない心」「愛する人」そしてそれを「運命」と信じる心であるのも、普遍的な正しさです。しかしそのオーソドックスな訴えかけの、なんと力強く素晴らしい事よ。若い登場人物に、自分の熱いメッセージをぶつける監督に、愛すら感じてしまいます。やっぱり映画はこうこなくっちゃ。私よりちょっと年上のボイルの若々しい心に、負けちゃいけないと思う私でした。


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