ケイケイの映画日記
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2006年10月21日(土) 「涙そうそう」

昨日観て来ました。ラインシネマは金曜日は会員デーで全作品1000円で鑑賞できる日ですが、それにしても確か公開一ヶ月近く経っているはずなにの、平日とは思えぬ入り。場内女性客が多かったですが、序盤からすすり泣きの声が断続的に聞こえます。が、この涙腺ゆるゆるの私が泣いたのはたった1回、子供の時の兄妹の姿にでした。良いシーン、描き方も随所にありましたが、全体的に脚本が安直で、泣かせることを重きに置いたため、底の浅さを感じさせました。今回ネタバレです。

2001年の沖縄。洋太郎(妻夫木聡)は自分の店を持つ夢を抱いて、朝早くから市場の配達、夜は居酒屋でアルバイトする働き者の青年です。充実した日々を送る彼に、島から高校進学のため妹のカオル(長澤まさみ)が同居することになります。二人は実は血のつながらない兄妹なのですが、洋太郎はカオルは真実を知らないと思っています。洋太郎の恋人の医学生恵子(麻生久美子)や友人(塚本高史)とともに、貧しいながら楽しい日々を送っていました。そんな時洋太郎が店の開店の際に詐欺に遭い、借金まで背負う破目になります。

冒頭原付で品物を配達する洋太郎の姿が、活気のある市場の様子と共に描かれ、働く充実感に溢れとても良いです。明るい笑顔の好青年が似合う妻夫木のキャラクターに合い、出だしは好調。長澤まさみも、ちょっとはしゃぎ過ぎの感はありますが、高校に入るか入らないかの時はあんなものではないでしょうか?彼女も好感度の高い女優さんなので、いやみには感じません。

洋太郎の母(小泉今日子)は彼を連れて、カオルの父と再婚したのですが、その夫も家族を捨てて出て行ってしまい、彼女もほどなく病気で亡くなっていました。臨終の間際「これからはカオルを守ってね。独りぼっちになってしまうから」と言い残して亡くなります。例え育ててくれる祖母がいても、子供の時から両親のいない人生は過酷です。彼女は子供を糧に夫のいない生活を懸命に生きてきたのでしょう、その知恵を息子に授けたのだと思います。守るべき大切な人がいる、その事は人生を前向きに生きさせることです。そして妹=女性を守る、男として正しい大人になって欲しいと言う思いです。洋太郎の父の離別の仕方はわかりませんが、夫二人に守ってもらえなかった彼女の女性としの願望が、息子に託されていたように思います。この言葉が、洋太郎の生きる指針となる魔法の言葉となったのには、肯けるものがありました。

老若の男性が、男の沽券を見せる場面を私は好ましく思います。時代が移り代わっても、その気概は失くならないものであって欲しいと思います。しかし普遍性を描くのと、古臭いのは違うのです。恵子が医者の娘・医者の卵というのは、後々の展開のため必要なのでしょうが、どうも私にはミエミエでよろしくない。釣りあわぬ二人を描きたいなら、恵子が年上で才媛のキャリアガールであることで充分ではないでしょうか?女性が仕事をしっかり頑張るようになって一番の変化は、男性から選ばれるのではなく、対等の立場になったことだと思います。洋太郎のような真っ直ぐで誠実な青年が、このようなことで借金を背負ったとしても、人を観る目のある甲斐性のある女性なら、別れの原因になるとは思いません。二人で返すなりする方が、断然今の男女の有り方にマッチすると思ったのは、私だけでしょうか?

それも朝から晩まで働く様子を描いていましたが、妹を養いながら3年ほどで返せる額です。カオルのことや洋太郎のひけ目を絡ませていましたが、そんなことは承知の上で4年も付き合った男女の別れの原因には、少し強引な気がしました。

カオルの「にーにー!」連発のはしゃぎっぷりに、多少ウザイものを感じていた私は、ふとこれは実の兄ではないのを知っているから、無理に子供っぽく装っているのかもと感じていましたが、恵子の「洋くんが思っているほど、カオルちゃんは子供じゃないわよ」という鋭い女の勘的セリフで確信しました。いつまで経っても妹離れしない兄に、もっと自分のことを大切にしてと、カオルは兄からの独立するといいます。兄の愛を重たいと言いながら、心から兄を愛するこらこそ、自分の存在が兄の足を引っ張ってはいけない、そう思う心が滲み出ていました。

しかしこんな良いシーンをぶち壊す展開がこの後に!何で無理無理洋太郎を病死させるかなぁ。肉体労働でがっちり働き、質素でも健全な食生活を送っている様子を何度も描いているのにですよ!何故にこの若さで過労死?あっけない臨終の後に病院中に響くようなカオルの「にーにー!」の絶叫に、場内すすり泣きの中、一人だけ凍りつく気分になる私。極めつけは洋太郎の葬式の後、カオルに届く振袖の着物。ご丁寧に手紙まで添えてあり、「今まで何もしてやれなかったが・・・」って、あれほど妹のために頑張っていたのに、そこまで言わすと厭味です。

今の時代は離婚も再婚も多く、ステップファミリーという子連れで第二の家庭を築く人も多いでしょう。あながち奇抜な設定ではないと思います。兄妹の愛と男女の愛の間を揺れ動く二人を丁寧に描いて、兄は店を持ち家庭を築き、妹は優秀な頭脳を生かした仕事につき、故郷の島で里帰りに再会する、そんな血縁を越えた兄妹になる姿を、ラストに私は観たかったと思います。

暖かく懐の深い沖縄の人々の様子は、しっかり受け取れました。血のつながらないカオルを快く育てたのも、無理を感じませんでした。一番良かったのは、古いビルの上の物置を改造した兄妹の家。狭いながらもきちんと整理され、心身ともに健康な二人を表しているようでした。家の前のテラスには花がいっぱいで、潤いと暖かさがいっぱいでした。あんな家に住んでみたいなぁ。








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