ケイケイの映画日記
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2006年09月29日(金) 「母たちの村」


2004年度カンヌ映画祭「ある視点部門」グランプリ作品。珍しいセネガルの作品です。まだアフリカでは広く行われている女子の割礼を題材に、虐げられた女性たちが、人としての尊厳を勝ち得るまでのお話です。アフリカは映画的には後進国なのでしょう。フィルムの状態があまり良いとは思えなかったり、会話の流れがスムーズでなかったり、一部の俳優の演技が素人に毛が生えたような感じもします。しかしそんな細かいことは全て吹き飛ばしてしまうほどの、大地の鼓動のような力強さを感じさせてくれる作品です。

西アフリカのとある村で、少女が4人コレの家に逃げて来ます。彼女たちは年頃の娘に施される女子割礼を嫌い、七年前自分の娘アムサトゥに割礼をさせなかったコレを頼って逃げて来ました。コレ自身は割礼をしていましたが、そのため二人の子供は流産し、アムサトゥも難産の末帝王切開で産んでいました。そのためアムサトゥには、割礼を拒否したのです。彼女たちを保護することを決めたコレは、家の入り口に縄を張ります。これは「モーラーデ」(保護)と呼ばれる儀式で、コレが娘たちの保護を辞めると宣言しなければ、他の者は少女たちに手出し出来ない掟なのです。このことがきっかけで、村は思いもよらぬ騒ぎに発展するのです。

女子割礼は未だに行われていることは知っていました。しかし性器の切除は一部分だけだと思っていたのですが、これが大違いで、ほとんど全て切り取られることもあるそうで、衛生管理が行き届いていない場所での手術がほとんどのため、割礼のために命を落としたり、排尿痛・激しい生理痛・出産時の難産・性交痛など、様々な症状が女性たちのその後人生を苦しめます。詳しくはココ

割礼もモーラーデも古くから伝わる因習です。女性の割礼師や少女たちの母親が、コレの下に娘を返すよう騒ぎ立てます。少女の中には、実の姉を割礼で失い、だから割礼を拒否している子もいるのにです。イスラム教を信仰する彼らは、割礼がコーランに書かれたお浄めの儀式と信じていますが、実はイスラム教の教義には、女子割礼はありません。「一人一万フラン」と囁く声がさりげなく挿入され、少女たちは割礼師の飯の種であることがわかります。

母親たちは自分たちも割礼の後遺症に悩まされているはずなのに、何故娘にも割礼を施すのか?それは割礼を受けていない娘は「ピラコロ」と呼ばれ、結婚出来ないからです。結婚出来ないことは、この村では生きていく術がないということ。それほどまでに女性は従属され抑圧されているのです。夫婦は一夫多妻、妻は金で買われる存在です。いう事を聞かないコレは殴れと、ムチを渡すコレの夫の兄。女たちに外の世界を知られてはいけないと、彼女たちの大切な知識や情報を仕入れる物であるラジオを、没収してしまいます。

抑圧されているのは女だけではありません。超保守的な考えのこの村では、村長を初め長老男性が全てを支配し、村長のフランス帰りの長男の新しい考え方は、ことごとく否定されます。

ラジオを没収された時、「何故ラジオを取り上げるの?」と一人の女性の言葉に、横の女性が「私たちの心を閉じ込める気なのさ」と語るのが印象的。コレの奮闘ぶりに、女性たちは段々と自意識に目覚め始め、一つになっていきます。

古くから伝わる因習を悪しき物と覆すのは、並大抵ではありません。外から観る私たちの価値観ではとんでもないことでも、その国の人々にとっては生まれた時からの習慣であり、言わば文化。この作品はアフリカ映画の父と言われるウスマン・センベーヌが監督しているので、その辺も上手く撮ってあり、決して野蛮なだけの印象は残りません。助けを求めた人を保護するモーラーデでしかり、コレも第二夫人です。同じ敷地に住む第一夫人は、嫉妬するのでもなく、コレや第三夫人には妹のように接し、まるで姉妹のようです。それが証拠に、一番にコレの理解者となり味方になってくれます。

そしてフェミニズムというと、VS男性という図式になりがちですが、この作品では因習に自ら縛られる保守的な女性たち、コレたちに賛同しながらも、長老たちに否定される男性の葛藤も盛り込んでいて、視点はとても公平です。男性の理解なくば、女性の心身の解放は望めません。男性たちを糾弾するだけの作品にはない、知性が感じられました。同じアフリカの男性であり、作品の中の長老たちよりまだ年上の80代のセンベーヌ監督が撮ったのは、とても深い意義があることだと思いました。

私はアフリカ女性の健康的な褐色の肌、大きな胸、しっかりしたお尻を見ると、孕む性をこれほど表現した女性たちはいないなと、いつも強い母性を感じます。原色の民族衣装に身を包み、かいがいしく動きながらも、ゆったりとタバコをくゆらし姿が大らかで素敵です。あまり目にすることのないアフリカの村の日常が垣間見えるのも見所です。エンディングで流れる「女性よ、学びなさい」と訴えかける歌が印象的。「母は強し」は、万国共通のようですね。

余談ですが、一夫多妻って男性にとっては本当に楽しいもんなんでしょうか?妻が何人もいるなんて、想像するだけでも冷や汗が出る男性の方が多いと思うんですけど〜。あくまで妻ですよ、愛人さんじゃありませんので。


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