ケイケイの映画日記
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2006年02月20日(月) 「タブロイド」

16日、「ジャーヘッド」を観た10分後に観た作品。南米の作品で(メキシコとエクアドルの合作)で、コピーに「あの『シティ・オブ・ゴッド』を凌ぐ!」とありましたが、多分凌ぎはせんだろうと検討をつけつつ、やっぱりラテンの作品は好きなので観ることにしました。しかし・・・。いや作品としては力強く、ラストはそういう展開になるのかぁと、なかなかのもんでしたが、後味が最悪で。「ジャーヘッド」も力が入ったので、とても疲れたはしごとなりました。

マイアミに拠点を置くラテンアメリカ人系向けのタブロイド番組の人気テレビレポーター、マノロ(ジョン・レグイザモ)は、番組プロデューサーのマリサ(レオノール・ワトリング)、カメラマンのイバン(ホセ・マリア・ヤスビク)と共に、子供ばかりを狙う殺人鬼”モンスター”の事件を追うため、エクアドルに入国する。取材中、偶然飛び出した少年が車に轢かれる現場に居合わせた彼らは、興奮した群集にリンチされていたビニシオ(ダミアン・アルカザール)を助ける。翌日”モンスター”の取材のため留置所を訪れたマノロたちは、ビニシオから真実を番組を通じて伝えて欲しいと言われる。代わりにビニシオは、まだ誰も知らない”モンスター”の情報を教えると言います。

冒頭何だか虚ろな表情で怪しげな行動を取っているビニシオが映ります。ここで観客は少々胡散臭く感じます。そこへリンチ事件。これが凄まじいリンチで、ビニシオばかり責められない状況であるのに、人々は”モンスター”事件のため殺気立ち、自分の子供も犠牲になるかも知れない不安感は、群集心理となりまるでビニシオにモンスターへの怒りをぶつけているようです。
ここら辺の演出は南米作品独特の血の気の多さと、湿り気を感じさせ、見応えのある演出でした。

しかし、いくら国民的ヒーロー扱いのレポーターだとて、簡単に刑事の検視現場に入るは、証拠物件の車の中の物を妻が勝手に持ち出すは、留置所で単独インタビューが何度も行われるなど、ちょっと日本に住む感覚だと、脚本がずさんな気がします。ビニシオとマノロとの駆け引きも、延々同じことの繰り返しだし、テンポが遅いです。そして肝心の”モンスター”は誰なのか?もうバレバレ。しかしこの作品は、それで良かったんです。犯人がどんでん返しの鍵ではありませんでした。


ここからネタバレ(終了後文章あり)












モンスターはビニシオ自身でした。彼にテレビでそのことを告白させ、大スクープとしたいマノロは、それを見透かされるように、ビニシオにじらされ、翻弄されます。これはマノロの行動が正義ではなく、野心・功名心のなせることだったからでしょう。マノロの心は、ビニシオが埋めた少女を発見した時、警察に知らせなかった時点で、もう魂は悪魔に売り渡したも同然。
この時から、ビニシオが釈放され、新たな殺人が行われる手はずは整っていたのでしょう。私がおかしいなぁと感じた、ぬるーい南米の警察は、セリフの「信じられない。賄賂が効かないなんて。ここは南米よ。」のセリフで払拭されます。その後の展開も、有力者の鶴の一声やお金で左右され、安全や法が簡単にひっくり返るのも怖く感じ、薄汚くじめじめしたエクアドルの底辺の町は、暗いエネルギーに支配され、モンスターを生み出す土壌を感じさせました。










ネタバレ終了




マノロの取った行動は、エクアドルだけでなく、どこの国でも起こりえることです。名声は自分を見失わせるのだなと思わせます。そして事実がマスコミの演出一つでひっくり返る、黒が白になる瞬間もまたしかり。

マノロを演じたレグイザモは、ちょっとクラシカルなチンピラの風情が個性的は人ですが、この作品のクールな人気レポーターを安定した演技で演じていました。今まで英語を喋る彼しか知らなかったので、ラテン語を話すのは新鮮でした。子供の頃コロンビアからアメリカに移住したそうです。プロデューサー役のワトリングは、あの「トーク・トゥ・ハー」の眠れる裸の美女。あの役は死ぬほど彼女の当たり役だったようで、今回も演技に不満があるわけじゃなく、綺麗だし夫とマノロとの間の揺れる心も無難に演じているのに、全然魅力を感じません。インパクトの有りすぎる役を演じた後は大変なのだなと思います。アルモドヴァルは、女性を美しく映すのは本当に上手なのだとも再認識しました。アルカザールは気弱で優しげな中、どこか危ないビニシオを大変好演していて、少々脚本が手ぬるいところも、彼の好演で最後まで引っ張ってもらいました。

後味は最悪ですが、見応えは充分にある作品。サスペンス面より人間の深層心理を、南米式に濃く見せてくれた作品です。


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