ケイケイの映画日記
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2005年01月16日(日) 「夫婦善哉」(日本映画専門チャンネル)

昨日夫婦(めおと)で観ました。(いやホンマ)。本当は「ネバーランド」を千日前セントラルまで観にいく気だったのですが、土曜日が来てとホッとしてしまい、何も初日から行かんでもええか、とグダグダしていてケーブルテレビをつけると、ちょうどこの作品が始まるところでした。そうや、ビデオに撮ろうと思って忘れとったんや、今日はしんどくて得をしたと、たまたま家にいた夫と共に鑑賞しました。

北新地の売れっ子芸者蝶子(淡島千景)は、船場の大店の若旦那柳吉(森繁久弥)と熱海へ駆け落ちします。柳吉には病に臥せった妻、13の一人娘光子もおり言わば不倫。中風でやはり臥せっている柳吉の父親は怒り、柳吉は勘当されます。ぼんぼん育ちの若旦(わかだん)さんの柳吉に生活力はなく、かつての先輩芸者の下、蝶子はヤトナと言われる雇われ芸者になります。一所懸命働き貯金をして、二人で店を開こうとする蝶子ですが、湯水の如く使ってしまう柳吉。いつまでも親の金を当てにする彼の情けなさに、怒ったり泣いたりしながら、蝶子は晴れて妻となる日を夢見て尽くします。


昭和30年度の作品です。当時の大阪弁が良いです。今の少々ガサツな大阪弁ではなく、浪速言葉とでも言いたいような風情です。ユーモラスでありながら品良く柔らかい、耳に心地よい言葉で、それを使うのは大阪に馴染みのある俳優さんばかりで、方言を使う作品は、御当地のものにとっては白けることも多々ありますが、この作品では古き良き大阪弁のはんなりさに、大満足出来ます。

森繁がとにかく素敵。とんでもないダメ男で、特別ハンサムではありませんが、ユーモラスで愛嬌があります。柳吉の育ちの良さと、潤沢に遊びに使えるお金があったはずで、それで身に付いた華やかさを感じさせました。遊び癖を責められたり、宙ぶらりんの自分の立場をどうしてくれるのかと、蝶子に責められ逃げ惑う姿など、当たり前やでとはならず、こんなに女に尻に敷かれて、この人優しい人なんやわと、私まで煙に巻いてしまうほどで、蝶子ならずとも魅かれてしまいます。所々これはアドリブではないかと思う箇所があるのですが、それが絶妙な間で、本当におかしいです。

蝶子は健気に柳吉に尽くすけれど、柳吉に冷たい彼の実家に「あの人は私が立派な一人前の男にしてみせます!」と啖呵を切る気の強さも魅力です。演じる淡島千景は大変美しいです。蝶子は柳吉の妻が亡くなったら後釜に座ろうと思っていたわけではなく、柳吉本人を愛していた、というより惚れていました。だからパンツ一丁で放り出されたみたいな柳吉に、身も心も尽くせたのでしょう。柳吉にとっても、自分の後ろの財力をあてにしない女など、素人玄人問わず、今までいなかったのではと思います。心から妻と呼ばれる日を切に待って柳吉に尽くす蝶子が切なくて、時々涙ぐんでしまいます。

こんな別嬪さん、この親から生まれるかい、というような御面相の蝶子の両親ですが、如何に蝶子を育てる時気を使ったかと柳吉に語る姿に、貧乏な家の器量良しの娘にかける、経済的な期待が感じられるのが切ないです。しかし、柳吉の実家にいつまでたっても嫁と認められない娘を不憫に思い、心だけでも暖めてやりたい親心が滲みます。それに対して、柳吉が病気をしようが蝶子が息子にどんなに尽くそうが、一切無視する冷酷な柳吉の実家は、体面を全面に重んじ、使用人に対してのみみっちい態度や、蝶子の父に「相手は船場や。どうしようもない。」と語らせるなど、当時の大阪の庶民の特権階級だった船場の大店を、批判していると感じました。

そんな中で司葉子扮する柳吉の妹筆子は、初対面から蝶子を「姉さん」と呼び、「今では姉さんがよう尽くしてくれてはると、お父さんも喜んではります。」と、嘘をついて蝶子をねぎらいます。母親と兄嫁に死なれ、家を継いだ兄は放蕩、婿養子をとるはめになった筆子に、今では忘れられがちな、家を守る女性の美しさを感じました。船場の大店だって、男だけが仕事をしていたわけではなく、筆子のような気配り利かせる女性の存在は大きかったはずで、見習いたいと思いました。

芸者とは芸のある者、すぐ元の売れっ子芸者になる蝶子に、そうか手に職なのかと私は思い、女に甲斐性がありゃあ、少々頼りなくても甲斐性なしでも、好きな男を選べるのだと私は妙に感心しました。時代が時代だけに、直接的な濡れ場やラブシーンはありませんが、二人が着物からはだける足をからめながら、開く店の相談をするシーンや、久しぶりに蝶子の元に帰ってきた柳吉に、さぁ今日はと蝶子が迫る場面など、描写にユーモアと艶があります。蝶子が毎日のようにお参りする法善寺横町は、昔はあんなんやったんですね。大昔観た時には感じなかったことを、たくさん感じた再見でした。近いうちに、夫婦で法善寺横町でぜんざいを食べてこようと思います。



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