日々記
もくじかこみらい


2003年07月30日(水) 参考書と花火。*小話*

漫画家、槙村さとるさんの授業でした。
ずうずうしく、サインをもらってしまいました。
すみませんでした、先生。嬉しかったです。

久し振りの小話ゴー。



 参考書と花火。


 気がつくと、空に大きな花が咲いていた。

 どどーん、どどーんと胃の底に響くような音にせかされた。
 ふらふらと席を立ち、窓を横に寄せ、夜風を誘い込む。
 一つ前に座っていた背中が振り返った。
 メガネを軽く上に持ち上げられて、露骨に不満を示される。

「ごめん、少しだけ」

 いちおうの事後承諾を求めて、苦笑いをする。
 直後。一際大きなどどーんとともに咲いた一際大きな花が、ご機嫌ななめのメガネのレンズに浮かび上がった。
 この予備校に入って、一年とちょっとの付き合いだけれど、初めて見た。
 メガネの向こう、眉じりが下がった顔を見て、北風と太陽のはなしを思い出した。
 あぁ完敗だと思った。

 地平線のそばはまだ明るい。けれど高度が上がるほど空は色の深みをまして。
 その中心点めがけて次々と空を花火がのぼっていく。
 今夜はお祭りらしい。
 らしいというか、そういえばクラスの女子たちが騒いでいた気もする。

 無言を許しと心得て、窓を開けたままにして席に戻った。
 
 机の上の参考書が数学じゃ可愛げがないかなと思い、せめて古典か日本史にしようと鞄の中を探る。
 こういうときに限って持ってないんだから、風流心のかけらのなさに恥じいる。

 ため息をついた耳に、カランカランと祭り独特の音が届いた。
 引き寄せられるようにして見た窓下の道路に、紺色の浴衣に黄色の帯をしめた女の子がいた。
 カランカランを引き連れて、小走りにかけていく。

「あっさこー!置いてくよー」

 待って。と前を行く友人たちに伝える余裕もないくらい、走り方がぎこちない。
 滑らかじゃない、カランカラン。
 ふと音を止めて、空を見上げた。つられて見上げた。
 どどーん。
 空にまた一つ、大きな花が咲いた。

 ふっと笑みがこぼれるのが分かった。
 どんな面白い公式を解いているのかと、前のメガネがちらりと動いた。

 机の中の数学の参考書を、鞄の中へとしまう。

「・・・町田、帰るのか?」
「うん。祭りにいくことにした」
「ふーん」
 の後ろに含みあり。また苦笑いで答えた。

 一緒に行かない?という言葉がノドまで出かかっていた。
 予備校の自習室、花火より参考書を実行している頭はいくつか。
 北風と太陽。参考書と花火。
 かけ引きの続く夜。
 臣は素直に負けを認めて、カランカランを追いかけた。



 * * *

花火に行きたくて書きました。行きたいです。
予備校の雰囲気が好きです。みんな無心で机に向かってるの。きりりとした気持ちになります。
花火をバックミュージックにしてみなさん、頑張ってください。応援してます。

で、町田くん書いてーと言われたので書きましたよ。
これじゃ物足りないですか。そうですか。朝子さん名前だけですもんね。
前後のはなしを付け足して、短いおはなしに昇進させましょうかね。
町田くんの一人称書きよいです、やっぱり。


金田・藍 |MAILHomePage

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