♀つきなみ♀日記
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2005年03月31日(木) 私的 「桜」

何年前になるだろう。

ちょっとした御縁のあった観桜の宴のお手伝いをした。

祖母に誂えてもらった着物を身つけた、
今は無い、千鳥ヶ淵のホテルで催されたその宴は
私にとって、元気な祖母と、最後の外出でもあった。

その年は暖かい日が続いてしまって、宴の日には
すでに花は散り始め、水面には花筏がいくつも浮かんでいた。

時折ざっと吹く風に形を変えながら、
いつしか、風下の岸に花びらは寄り添う。

水面に茜がさす頃宴は終わり
待ち合わせをしていた祖母と
遊歩道を少し歩いた。

祖母は何度か立ち止まって、すこし離れて私を見る。

「なにしてんの?」
と私が尋ねると
「並んで歩いてるとあんたが見えないからねぇ」
と笑う。

「何言ってんの。私なんかいつも見てるじゃない」
少し照れて、私は応える。

ひらひらひらひら、花びらは舞って
灯りだした町の明りが水面に映る。

新月だったその日の空は、星だけが瞬き
淡い色の花びらは、それでもはっきり見えていた。

笑う祖母の姿は、思っていたより小さく
その姿は、花吹雪に霞み
次の年は、病院の窓から桜を見、
その次の年に、祖母は逝った。


新しき 月を待ちしや 花筏 流るを止めども 色や褪せるに 






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思いの深い桜の日の記憶について書いた
2000年3月某日の別日記を一部改稿致しました。








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