♀つきなみ♀日記
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2001年03月16日(金) 江戸の蕎麦など

って事で、なんだか大敬愛させて頂く下条様を、又、出汁にさせて頂いてまことに申し訳ありません。っていうか江戸蕎麦好きの戯言と思し召して、ご寛容下さいね。まさに出汁のお話ですし。

麺類については専門サイトも数在り、また薀蓄本も多く出ていますので、今更私が語れる事は少ないのですが、関西の方からご覧になって、江戸の蕎麦の出汁が黒くて香りがしないって話を良く伺うのですが、こりゃちょっくら誤解だったり致します。

ご存知の方も多いと思いますが、江戸期において麺の消費は関西においてはうどんが、関東においては蕎麦が主力となりました。蕎麦は元々、雑穀として粟や稗などと共にそのまま炊いたり、雑炊や餅として食されていて、蕎麦切りが一般の方に食べられるようになるのは、江戸の中期以降、つまり醤油が大衆に広がる過程と歩みを共にします。汁と麺の組み合わせは、新しい調味料を得て現れた新型料理だった訳ですが、ザッパに言えば、単価はうどんの方が高くて口の肥えた方向け、蕎麦は大衆向きだったんですね。

その際、街の拡大と度重なる火災復興のための土木都市であった江戸では、武家以外では比較的塩気の濃い江戸で開花した濃い口醤油が中心となり、洗練された食文化を持つ関西では、薄味のものが好まれるようになります。

また、江戸で外食自体が一般化するのは、開府から百年近く経った18世紀初頭からとなるのですが、外食の顧客は職人や作業関係に従事する人々が多く、当然、塩分を求めて辛口志向となり、これが二八そばに代表される、関東の蕎麦なのです。そしてこれは、ザルというかつけ麺ではなく、汁蕎麦です。

但し出汁が薄い訳ではなくて、濃い口醤油に負けないように、関西より強い出汁を取る事が一般的で、なので文献にも関西から関東に来た人達が、出汁が強すぎて下品だとの記述が多々見受けられる訳です。醤油が強いわけじゃないんですよね。

関東が出汁が強かった理由はもう一つあって、現在の鰹節は「枯れ節」と言われるものなのですが、これは明治になって開発された製法です。江戸時代も元禄期にカビ付け製法が一般化するまでは荒節か裸節で、運送の問題もあり煮出ししなければならなかったと言われています。そして、うす削りの花かつおで香り付けする、合わせ出汁の手法も、この事から江戸の蕎麦屋が起源と言われています。

18世紀の後半になると、屋台ではなく居売りの蕎麦屋(店舗を構えた店)が増え始め、こちらが江戸蕎麦の味の主力となって行きます。江戸蕎麦を大別すると、蕎麦殻も一緒に挽く色の濃い「藪蕎麦」の系統と白い実の部分だけを挽く「更級蕎麦」の系統があります。出汁はどちらも、蕎麦の香りを消さないように、昆布と鰹の出汁が一般的で、この頃から「蕎麦で一杯」という流れが現れて、現在の「モリ」や「ザル」のつけ麺が登場します。時代劇でお馴染みの、夜蕎麦売りが流行るのもこの頃からですね。

「モリ」と「ザル」は海苔がかかっているかどうかの違いではなく、元々は「モリ」は出汁の「かえし」に酒だけを使った辛口で、「ザル」は味醂を使った、ある意味関西風の味付けである「御膳出汁」であった事はほぼ間違いないようです。

蕎麦の味の変遷は2度あって、一度目は明治維新の際に失業した武士階級等が、手軽な商売として蕎麦屋台を開業したのですが、御膳出汁系では地方から出て来た労働者には味が薄すぎて、モリの汁を出汁に混ぜた処好評だったため、屋台蕎麦は江戸蕎麦から味が分化していったと言われます。もう一度は終戦直後でこれも同様な流れであったようですね。これはある意味で、首都東京の蕎麦の味かも知れませんが江戸の味ではなかったりします。

現在の蕎麦で江戸の味を伝える店は決して多くはありませんが、立ち食いや、大衆食堂のインスタント出汁を使ったものが、江戸の蕎麦の味ではありません。っていうか、そんな醤油の濃い出汁のない蕎麦を、酒を飲んだ上がりに食えないっす。

関西の蕎麦屋ではあまりお酒を飲んだりする習慣はありませんよね。江戸の蕎麦屋は出汁巻卵や、鳥ワサで一杯飲んだあと、上がりで食べるのが常態だった訳で、今でも汁蕎麦にも、蕎麦湯を出すのが普通です。香り立つ蕎麦と出汁の香りと味を是非お試しください。

お薦めのお店は数多くあるのですが、関西の方にも納得頂けそうなのなら、六本木の「ほんむら庵」あたりからお試しになられれば如何でしょうか?

僭越、平にお許しください。

追記
江戸蕎麦でお薦めのお店のご要望を頂いたのでちょっとだけ
神田なら「藪」よりは「まつや」(漢字忘れた(^^;;
ダークホースは、池之端「巴」が良いと思います。
永坂更科は、江戸と言うより「東京」に近いですが、最近味が戻ってるみたいっす。


テキスト庵

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