その後は、Nに会っていない。
Nの残したバラは、意地でも枯らせたくなかった。 全部 私が引き取り、友人、知人、親戚、ネット網まで使って、 引き取り手を捜した。 一鉢2000円で買ってもらい、そのお金はすべてNの郵便受けに入れた。
「ありがとう、アパートを探す足しになるよ。」とお礼の電話が来た。 Nと話したのは、それが最後になる。
偶然 隊長に会った時、残った球根を手渡された。 「お宅の庭で咲かせてあげて下さい。」と 泣きそうに微笑んだ隊長の目を正視できず 目をそらした。
水辺の里で、大勢子供達を引き連れて カレーを作って一日遊んだ。
4家族で早地峰山の麓をドライブして、焼き鳥を大量に焼いて食べた。 隊長のつりざおをひっぱって 子供達は綱引きをした。 巡る季節を 一緒に 本当に思い切り遊んだ。
あの時一緒に遊んだ子供達は、みんな中学生になった。
Nのバラは、遠くは世田谷まで行った。
一緒に花巻ばら園で買った、最初のバラ「バタースコッチ」。 今では 二階まで届く大株になっているそうだ。 ばら園の園長先生が、声かけて下さった時も Nも一緒だった。
頭の両脇で髪を結ぶNの髪型は、わたしの漫画のキャラクターとなり Nの名前を使ったその主人公は、何年も経てテレビドラマにまでなった。
Nが たった一本 最後まで、手放さなかったバラがある。 「イブ・ピアッジェ」という大輪の濃厚な香りのバラ。 私の好みではなく、そんなのどこがいいの? この良さがわからないの?と 笑って言い合った。
バラの好みだって、平行線をたどる。 まして他人の人生に、どう口出しができようか。
青い鷲は、Nの背中で、羽ばたき続ける。
それは 確実に 重荷になるだろう。 刻印に手を貸した者として、問いかけずにはいられない。
イブは 今年も 咲いた?、N。
元気で やってる?N。
人は飽きる生き物だ。
ホームページだって、作ってアップロードした瞬間から 飽き始める。 夫婦ごっこ、家族ごっこ、親子ごっこ、ガーデニングごっこ、 友達ごっこ。
Nは、とうの昔に 全てに飽きていたのだろう。 若い男は、そのきっかけに過ぎない。
古い服を脱いで、新しい服に着替えたかったのだろう。
あれから 6年が過ぎて、今は 私にはそう思える。
激しい口論をした。
Nは、私の頬をたたいた。 それでも、私はひるまなかった。 どうしても 言っておきたいことがあった。
カラーコンタクトで 青い瞳になったNに、 もう遠くへ行き始めているNに。 古い衣服として、脱ぎ捨てられる側の言い分として、 膨大な数のメールのやりとりをしても、本当のことは何も 語ってはくれなかったNに
「アンタは、知らない、どんなにみんなが心配してるか。 どんなに みんながアンタを好きか・・・・・。」
不幸な幼年時代を送ったというN、 幸せに安住できない体質なのだろう。 絞り出すような私の声は、届いたのだろうか。
Nは、私を抱きしめて泣いた。 「ごめんね、ごめんね。」と さっき叩いたばかりの私の頬をなでた。
|