6匹目の兎<日進月歩でゴー!!>*R-15*

2006年05月13日(土)   鬼の守人 ─嚆矢─  <弐>/<参>

序と壱だけでは、あまりにも短かったので(汗)
続きを追加するために、小細工。 ←前日スペースを有効活用。

で、弐と参をアップ。

「うしお/と/とら」モチーフなので、こんな展開になりました。
リク内容の、ここだけは、遵守できたと思いますです(笑)
































弐、根付



電車に揺られながら、兎草はパーカーのポケットから小さな物を取り出し、眺めた。
それは出がけに大輔から渡されたものだ。

掌に収まる、小さな物。

これは根付とよばれる日本古来の装飾品で、昔の人が印籠や煙草入れなどを帯に手挟むために使った紐の留め具である。
今風に言うならストラップの飾りみたいなもの、だろうか。
兎草は、手の平の上に転がるそれを指先で突付いた。
細く組み編まれた錦色の紐の先に、木彫りの犬が付いている。
その犬は、張子の犬のような丸っこい形をしていて、随分と可愛らしい。
大輔は趣味で和小物を蒐集しており、根付もその中の一つであった。
が、こんな物があったろうか?自分の掌におさまっている根付を見て、兎草は首を傾げた。
後ろに立つ馬濤も覗き込むようにそれを見ており、やはり同じ様に首を傾げている。

何の為の、犬の根付か。

考えてみても、コレを渡された理由は、さっぱり分からない。
あの大輔がこれを持っていけと言うからには、それなりの理由があるのに違いないのだが、見当もつかない。
いくら考えても分からないものは分からない、と兎草が考えるのを放棄したとたん、駅の名前が車内の掲示板に表示され、アナウンスが流れ出した。
根付を眺めるのをやめて、元のようにしまう。
兎草は、ゆっくりと流れを変え始めた窓の外に、目を向けた。













参、少女



改札口を出た兎草は、人ごみを避けながら目的地である本屋へと歩き出した。
馬濤はといえば、人がいようがお構いナシに、兎草の隣りをふわりふわりと歩いている。
馬濤の身体を通り抜けるように歩いていく人達の姿に、兎草は少しだけ眉間を寄せた。
自分達が今、霊体の中を擦り抜けてしまったなんて知ったら、どう思うのか。
知らぬが仏、とはこの事かもしれない。


参考書を頼んだ本屋は、駅前から少し歩く。
実は、兎草の住む町は小さいので、本屋が一軒もない。(コンビニはかろうじてある)
だから、参考書一つの為にわざわざ電車で来なければならない。
それは難点でもあったが、ついでに漫画や雑誌を見ていくことも出来るわけで、このテの手間も結構、兎草は好きだった。

背の高いビルが並ぶ、舗装された道を行く。

ここ神望町はいつも歩く町よりも幾分か都会的で、初めて来た馬濤はきょろきょろと辺りを見るのに忙しい。
馬濤は、指をさしながら兎草に訊ねる。
「兎草、このデカイ箱は何なんだ?さっきから、人がすげえ入ってくぜ」

デカイ箱?

兎草は片眉を上げながら、その指のさし示す先を見た。
どうやら、駅前にある大きなビルのことを言ってるらしい。
それに兎草は、道行く人に怪しまれないように、小声で教えてやる。
「それは”ビル”っていって・・・えーと・・・店が、いっぱい入ってるようなものだよ」
馬濤に分かり易いように、言葉を選ぶ。
黒い布に覆われた馬濤の目はじっと、そのデカイ箱に注がれていた。
「店・・・ってぇと、石川ンとこみてえのが入ってるのか?」
その例えに、兎草の頭の中に、いつ潰れてもおかしくない石川の店が浮かぶ。
間違ってはいないのだが、頷いていいものか。
「まぁ、ああゆうのは・・・入ってないと思うけど、大体、そんなもんかな。服とか食べ物とか。本とか。色々売ってるんだ」
熱心にビルをみている大男に、内心、笑ってしまう。
まるで、無邪気な子供のようだ。
「ナルホド。あれだな、市が丸ごとあん中に入ってるって思えばいい訳だろ?」
馬濤は納得したのかそう言って、また楽しげに、ビルに入っていく人間達を見た。
いつの間にか、馬濤につられて立ち止まり、その光景を眺めてしまう。
そんな風にビルに気を取られていたせいか、兎草は自分に近付いてくる小さな影に気付かなかった。
とす、と軽い感触がして。
それで、やっと、何かが自分にぶつかったことを知った。
視線を下げると、そこには。
「うぁ、ゴメン!大丈夫か?」
しりもちをついてこちらを見上げている少女がいて、兎草は慌てて謝りながら、立たせてあげた。
小学生になるかならないか、だろう。
ウサギの耳のように頭に二つ、赤い飾りの付いたゴムで髪を結った少女が、兎草とその隣りをじっと見つめている。
少女がそこで初めて口を開いた。
「これ、とってもつよいものね」
軽やかな少女の声と、小さな指が差し示す先。
そこに居たのは、紛れもなく馬濤で。
「おにいちゃんの?」
「───────」
兎草は突然のことに、驚いて声も出なかった。
「これは、こわくない」
少女は、そんな兎草に、にっこりと笑って見せた。



2006年05月12日(金)   鬼の守人 ─嚆矢─  <序>/<壱>

久々に鬼シリーズ。
変化。
成長。
そんなものを目指してみました。



このお話は。
イベント+通販でお手数・ご迷惑をお掛けしたお詫びに・・・と、O野寺さんにリクをお願いして。
それを素に、出来上がったお話だったりします。

鬼の話を。
といわれて、嬉々として書きました。
が。

なにやら、リク内容から外れたような気が・・・?

あわわ、申し訳ございません・・・!!(;´Д`)
文力が足りませんで、このような話になりましたが。
でも、精一杯、楽しんでもらえるように!と書きました。
なので、お気に召していただけたら、嬉しゅうございます。

意気込みすぎて、ドツボに嵌り、遅筆の罠。 ←三重苦か・・・orz

O野寺さん、遅くなってしまいましたが、お納めくださいませ。
今のところ、一部ですが(笑)

(まだまだ続きますので、この後もお付き合いいただけたらサイワイです^^)

そして。
鬼が好きだーと言って下さった方々にも、捧げたいと思います(´∀`*)ノシ
















序、嚆矢





皓、と白く。
嗷、と黒く。

弓、きりりと撓り、矢、ひゅうと啼く。

放たれた矢は、何処へ。
空を裂き、一条の道を駆け。
射抜くのは、何か。


善しか。
悪しか。



偶然が重なり。
必然が始まる。













壱、選択



日曜の昼下がり。
一本の電話がかかってきた。

それを受けた兎草は、暫し考え、出掛ける事を選択した。
休日を家でまったり過ごそうかと思っていたが、出掛けるのも悪くない。
パーカーをはおり、ジーンズの尻のポケットに無理矢理、財布を捻じ込むと部屋を出る。
その後ろを当然のように、馬濤がついて来た。
階段を下り、居間に顔を出す。
出掛ける前に、祖父である大輔に声をかけていく為だ。
先程までいた素子も、仕事に出掛けたらしく、姿がない。
「祖父さま、俺もちょっと出掛けてきます」
その声に、新聞を読んでいた大輔が顔を上げた。
眼鏡を外しながら兎草を見て一言。
「何処まで出掛ける?」
そう静かに問われ、兎草は答えを返した。
「神望町。頼んでおいた参考書が届いたっていうから、取りに行こうと思って」
電車に乗って二駅先の街の名を告げると、大輔は少し思案顔になり、
「少し待て」
とだけ言うと自室の襖を開け放ち、その奥へと消えてしまった。
「家長のヤツ、どうしたんだ?」
馬濤はひょいと兎草の肩の辺りに顔を突き出すと、訝しげに呟く。
全くワケが分からない兎草も、それには、さあ?と首を傾げるしか出来なかった。

閉じられた襖が、再び開くまで。
二人は待つしかなかった。


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武藤なむ