petit aqua vita
日頃のつぶやきやら、たまに小ネタやら…

2003年12月30日(火) まだ書けてないんだけどなぁ…

あああ。横浜コスモワールドを舞台にしたクリスマス小ネタの最後のひとつまだ書けていないのに……とうとう年末となってしまいました。

とゆ訳で、毎年恒例、仕事が年末年始執行体制に入るため、ネット落ちです……。(とほほ)

まだ書けていない小ネタはスキビの小ネタなんですが、うーんそうだなー……バレンタインのネタにでもして日の目を見たいと思います。(それまで私このネタ覚えていられるのかしら……あわわ)


そんなこんなで、これが今年最後のプチアクアとなるでしょう。

2003年内にカウンタも40000を超え、ありがたさに感謝感激している平です。
マイペース更新だわ、多ジャンルだわ、やたらと語るわのえらいこっちゃなHPですが、ちまちまでも、HPやってて良かったなぁって、思います。心から。
楽しくてしょうがないんですもん♪
どうもありがとうございました。

来年も、なにとぞよろしくお願いします。


では、よいお年をお迎えください。



2003年12月26日(金) 思ったよりも手間取って

思ったよりも手間取ってしまいました。
クリスマス小ネタ。

……てーか、あと二本あるのにまだ書けてないよ……どーすべ。

おまけにトップも、もうクリスマスじゃあかんやん〜!!


てな訳で、明日、時間がとれればトップのカットだけでも差し替えます〜。
んでもって、遅れてでもクリスマスSSは書きたいんです〜。

正月ネタは、平本人が超多忙すぎて無理だと思うので。せめて思いついたクリスマスネタは書き上げたいの〜。



2003年12月25日(木) 『宝石箱3』(女の子ヒカル小ネタ。オガヒカ)

ゆっくりと、ゆっくりと、地上が遠くなる。
2人をのせた観覧車は、かすかな音をたてながら、冬の空へと近づいていった。



ヒカルは早速窓にはりついて、きらびやかな景色に歓声を挙げている。
「うわぁ!もうあの大っきなツリーがあんなに下にあるよvv」
見てみてvvというはしゃぎっぷりに、緒方はくすりと笑った。
「進藤は高い所平気なんだな」
「…え、もしかして緒方さんダメだった?」
だったらこんなのに乗ってマズかったかな、とヒカルが振り向く。
「まさか」
ヒカルの言葉を否定して、緒方は足を組んだ。楽しそうな表情はそのままで。
「高所恐怖症はアキラ君だ」
「…え、マジ?!」
「事実だとも。ついでに言うなら塔矢先生もそうだ」
「……すっげ以外…」
「先生の方まだ良いほうだ。足場さえしっかり立っていられればとりあえずは平気だからな」
「…塔矢は違うの?」
「脚立2段目が限界らしいぞ」
「うわー……それじゃ、観覧車なんて絶対無理だね」
こんなにキレーな夜景が見られるのに、カワイソウかも。
「さぁ?分からんぞ?意地っ張りのアキラ君のことだ。顔から下に冷や汗をびっしりかきながらも、「乗る」って言い張るんじゃないかな」
緒方の軽口に、ヒカルは手を叩いてキャラキャラと笑った。
「あははははは!言えてる〜vvよく分かるねぇ」
「…ま、生まれた時からのつきあいだからな。……進藤」

…ふ、と視線を外にやり、緒方はゴンドラの外を指さした。
「……え?」
「見えてきたぞ。コレが見たかったんじゃないのか?」
ヒカルの視線が、緒方の指す方向へと向かう。


「………うわ………すご……………!」

ヒカルと緒方の眼下に広がるのは、冬の夜空に広がる、一面の光のまたたき。

パンパシフィックホテルの窓の灯り。
そびえ立つ光の塔、ランドマークタワー。
その手前の日本丸パークには、帆船がイルミネーションに彩られて、夜の海に浮かんでいる。
暗い海の中を一筋の光の線路が走り、時折列車が、その光の中に人々を乗せて走るのが見える。
それらが、海の水に反射してゆらゆらと揺らめいて。
冬の澄んだ空気の中で、遠くまで続く不夜城の灯り。
それらをつなぐ光の筋のような、車のヘッドライトとテールライト。

「すっげー………!キレー……………」

「確かに、一見の価値あり…だな」

ふたりは、あまり言葉もなく、眼下に広がる光の芸術に見入っていた。



「……なんかさ」
「?」
「すごいね。宝石箱みたいだ」
「ずいぶんとロマンチストだな」
「……そうかな?こんなに、ひとつひとつがいろんな色で光っててさ」

暗いゴンドラの中、ヒカルの顔が夜景の明かりに照らされる。
白い頬も、金色の前髪も。

「人工の光っていえばそうなんだけど」

ガラスに手をついた。目の前に広がる光景を、撫でるかのように。

「ひとのちからで光っているものだから」

ヒカルの目がその光を見つめる。…まるで、愛しいものをみつめるかのように。

観覧車の、てっぺんまで、もうすぐ。


それまで、夜景に見入っていたヒカルが、突然緒方を振り向いた。
にっこりと、微笑んで。

「何かさ、「生きてる」って、感じ、しない?」

緒方を捕らえたのは、ふたつの宝石。
霧がかった、深い森の色。
一瞬彼が息を飲んで見とれてしまうほど、その輝きは「本物」だった。


「……それなら」
「え?」
「その光を頼りに、空を翔けるのかもしれないな」
「何が?」
きょとん?と首を傾げるヒカルに、緒方は柔らかく唇を歪める。
「今夜の主役さ」
「今夜………って」
今日は12月24日。キリストの誕生日の前日ではあるけれど。
その夜に、赤い衣装で夜空を翔ける、世界的な有名人。

「……サンタクロース……?」
「ああ」
緒方の答えに、ヒカルは目を丸くして答えてから、やがて、くすくすと笑いだした。
「緒方さんの方が、よっぽどロマンチストじゃん」
オレ、小1の時もう親父がサンタだって分かってたよ。
笑いがおさまると、ヒカルは自分の首に巻いていた緒方のマフラーを外した。

「はいこれ。ありがとう」

むきだしになった細い喉は、まだ幼くて。
差し出されたそれを受け取ると、緒方はもういちどヒカルの首に巻きつけ、ゆるく結んでやった。
「緒方さん!」
「またどうせ外に出るんだ。風邪をひかれちゃ面倒だしな」
「いいの?」
「ああ。何ならやるぞ。クリスマスプレゼントがわりにとっとけ」
「煙草臭いマフラーが〜?」
「つべこべ言うな」

ヒカルはちょっと考えこんだが、ぱっと顔を上げて無邪気に笑った。
「じゃあ、お返しに観覧車降りたら、コーヒーおごるね!」
「……ブラックで頼む」
「らじゃvv」


ゆっくりと、ゆっくりと、近づく地上の明かり。
ほんの十数分だけ離れていただけなのに、何故か「帰ってきた」という気分になる。
空にあこがれながら、やがて、ひとは大地に還る。
空で見下ろした宝石箱は、地上の上にある。






地上に降りて、係員がドアを開けると同時に、ヒカルは白い息をはずませて飛び出した。
「ちょっと待ってて!すぐ買ってくるから!!」
そう言い残して、駆けだしてゆく。

そんなヒカルの姿を、緒方は苦笑しながら見送っていた。

電灯の光を、「生きている」と語るヒカル。
虚飾ではない、あくまでも本質を見つめる、まだ、無垢な彼女。



緒方は、コートのポケットに手を入れ、手に触れたものを握ると自らの目の前にしゃらり、と垂らした。
銀色の華奢なチェーンの先端には、周囲のイルミネーションの光りに白く光る、小さな宝石。



「これをやるには、まだ、早かったか」

彼は、ネックレスを再び手の中に閉じこめた。















………どこか、嬉しそうな表情を浮かべて。



2003年12月24日(水) 『宝石箱2』(女の子ヒカル小ネタ。オガヒカ)

冷たい海風が、ヒカルの喉をなでていく。
「うひゃ!寒いっっ!」
思わず首をすくめ、コートのフードについているフェイクファーを両手でかき寄せながら、ヒカルは駅からの道を歩いていた。
ここまでくれば、目的地はもうすぐ。
辺りは暗くなっていたけれども、その行き先は、色とりどりのイルミネーションが眩しいくらいに輝いている。
自然に、ヒカルの足も速くなった。

待ち合わせは、「よこはまコスモワールド」。
大きな観覧車に乗りたい、と言ったヒカルに、緒方が指定してきたのはそのクリスマスツリーの前だった。丁度、クリスマスになってしまったのは、緒方の仕事の都合でその日しか空かない、ということだったのだ。

(クリスマスパーティーも特大ケーキも、ちょっと惜しかったっちゃ惜しかったんだけどな……)

…でも、待望の観覧車はもう目の前。
ゲートをくぐり、ヒカルは一番目立つ観覧車の前にある光のツリーに向かって駆けだした。




「……う…わぁ………!」
目の前にそびえ立つ、巨大な観覧車。その観覧車はピンクレッドの、あたたかい光を灯し、ひとつ、ひとつとまた時を刻んでいる。冬のはりつめたつめたい空気の中で、その光はやわらかく、やさしくしかし華やかに輝いていた。
ひとつ、またひとつ。
時がたつごとに、花びらが増えて、まぁるいピンクの花が創られてゆく。
全てが完成するまで、もうすぐ。
「あ」
光の花が完成して、渦巻くようにイルミネーションが点滅する中、ヒカルはそんな様子に背を向けて立っている見慣れた白いコートを見つけた。
周囲のカップルが、その背後のクリスマスツリーと観覧車の光の幻想に目を奪われて見上げている中で、ひとり煙草を銜えて立っている。
なんとなく、その様子があまりにもらしくて、ヒカルはくすりと笑って、駆けだした。

「緒方さん!」
「……思ったよりも早かったな」
「何だよー。オレだってたまには時間くらい守るよ!」
「その割に、3分遅刻だが」
「細かすぎ!」

ぷぅ、とヒカルがむくれると、緒方はくつくつと笑いながらくしゃりとヒカルの髪をかきまわした。
「うわー、やめてってば!くしゃくしゃになるから!」
「細かいことは気にするな」
実に楽しそうに笑うと、緒方は紫煙を吐き出し、吸い殻を携帯の灰皿にねじ込んでぱちん、と閉じた。
ヒカルは緒方に乱された髪をなんとか元に直している。
すると、ふわり…と首元があたたかいものでくるまれた。
「へ?」
「見た目に寒すぎる。しばらくしておけ。そら、行くぞ」
「あ…うん」
観覧車へと向かう緒方の後についていきながら、ヒカルは肌触りの良いクリーム色のマフラーに顔をうずめた。
「緒方さん」
「なんだ」
「煙草くさいよ。コレ」
「文句言うなら返せ」
「やだ。だってあったかいもん」
「だったら黙ってしてろ」
「でも煙草くさいんだよホント」
「煙草ならやめる気はないぞ」
緒方の言葉に、ヒカルはくすくすと笑った。
「緒方さんが禁煙〜?想像つかない」
「想像しなくて良い。…大人一枚、子供一枚」
列に並んだところで、チケットを買い込んだ。
「えー、オレ子供?」
「じゅうぶん子供だ」
ほんとうはヒカルはもう16歳で、子供料金の年ではないのだが、十分中学生で通用する。ギンガムチェックのつぎが所々にあたったジーンズの上に同じデザインのミニスカートを履き、クリームイエローのセーター、それにフェイクファーのついたオレンジのダッフルコートといういでたちも、流石にヒカルを「男の子」には見せないものの、実際年齢よりも幼く見せるのに効果的だった。
首まわりにはなにもなくて、その細さがあまりにも寒々しく、つい自分のマフラーを貸し与えてしまったのだが、それに顔半分まで埋もれて満足そうな表情を見せるヒカルに、緒方は苦笑した。これでは、先程チケットの販売員が、「ご兄妹ですか?仲が良いんですね」と言われたのも道理だろう。……援交だと思われなかっただけ、幸いというか、何というか。

ヒカルは、何も知らずにもうすぐ乗る観覧車の光の洪水を見上げている。
クリスマスの夜に。
他にも誘いはあっただろうのに。
約束だからと、緒方のもとに駆けてきた。
……その意味を、目の前の少女は、まだ、何も知らない。
知らないくせに。



「ほら、緒方さん、もうすぐだよ」
にこりと笑って、ヒカルは緒方の手を引いた。



2003年12月23日(火) 『宝石箱』(女の子ヒカル小ネタ。…そのわりに……(苦笑))

「進藤、これから和谷ん家でクリスマスパーティーするんだけど、どうかな?」
「え?パーティー?」
ヒカルは目を丸くして冴木を見上げた。
小さく首をかしげるその姿がなんとも愛らしく、
(うわ……激カワイイ………!)
思ったことをモロに言葉に出しそうで、冴木は思わず自分の口を手で押さえた。

背後に、呪いのおかっぱ人間がしのびよっているとも知らずに。

「……鼻血ですか?冴木さん」
「おわっっ!と、塔矢アキラ?!」
いきなり背後にはりつかれればそりゃ怖いだろう。おどろ線ぷらすツンドラブリザード並の冷気を伴えば余計である。
「ふふふふふ……ええそれはね、進藤は薫り高く咲く百合の花よりも清らかで野に咲くひなぎくよりも可愛らしく夏に咲く向日葵よりもまぶしくてその瞳は冬にきらめくシリウスよりも冴えわたり小野小町も楊貴妃もクレオパトラをもしのぐほど美しく愛らしいのですからそんな進藤を目の当たりにしてそのような事になるのは分かりますよええ身をもってわかりますともしかしながらこのボクをさしおいてそんな妄想にふけるとは不忠不義の曲者今すぐココで切り捨て御免にしても………」
「ちょっと待て塔矢!俺はただ単に……」
「…おや、切り捨てでご不満ならば打ち首、はりつけに縛り首に火責め水責めコンクリート詰め……」
回り始めたアキラの思考は止まりようがなかった。


「ねぇー、ちょっと、おふたりさん?」
「へ…?」
ひとりでぐるぐる回りながら何事か呟く塔矢と、圧倒されて身動きもならなくなった冴木に声をかけたのは、今年女流枠でプロ入りを決めた奈瀬明日美だった。
「取り込み中悪いんだけど……進藤なら、帰ったわよ?『今日は約束があるからゴメン!』だってさ」
「約束って…誰と?」
「さぁ?私も通り掛かりに伝言たのまれただけだもの」
明日美はふふん、と笑ってみせた。
冴木はその背中に黒い羽を見たような錯覚にとらわれる。
「でもねぇー」
できればその続きは聞きたくない。…そんな気がするのに。

「なんたってきょうはクリスマス・イブだもん!彼氏とデートに決まってるじゃないvv」
進藤も天然のようでなかなかやるわね〜♪と、明日美はご機嫌よろしく、自分もこれから予定があるから、と手をひらひらさせて去っていった。

後にのこされたのは、今年もシングルベルを約束された男がふたり。
「はぁ……和谷に何て言おう」

「なぜだ…何故なんだ進藤……この日のために特注のクリスマスケーキ特注ウェディング風も用意したし、ミニスカサンタの衣装だって、フィンランドから空輸したトナカイと橇で街中をパレードするために手配しておいたのに……!」

……いや、だから。

「君が望むなら雪だって降らせようと、大量の念人形も用意してお百度参りだってするのに……」

「……………………」


「一体何がいけないというんだ!!

   進藤〜〜〜〜〜〜!!!!!!(号泣)」



………たぶん、その全部だと思うぞ、とは、冴木は分かっていても口にすることはなかった。



2003年12月21日(日) 何年ぶりかで…

本当〜に、久しぶりに。
買っちゃいました。「花ゆめ」!!

え〜と、前回買ったのが「せかキラ」の続きがどうしても気になって、しかも扇子とトールさんのツーショットのあまりの嬉しさに衝動買いしたんだっけ……。
ふふふ。照れや羞恥心なんぞ、コンビニでテニプリやヒカ碁読んでにやけつつ拳をぶんぶん振り回すような私に(しかもその上で買わないんだから)今更ある訳がない!(どきっぱり)

そんで、雑誌類はすべて立ち読み派の私がどうして買ったのかというと、



キョーコがめちゃめちゃ

格好良かったんですよぅ〜〜!!



んもぅ、蹴倒せ!松太郎〜〜っっっっ!!ってな勢いで♪
キョーコちゃんの変貌に戸惑う松、焦る松、そして、プレッシャーを感じる松!!
それに反して、向うずねに蹴りをくれてやった上、胸ぐらを掴んで啖呵を切るキョーコちゃんのなんと格好良いことか………(うっとり)
し・か・も!
美森ちゃんをリードし、演技ができない状態だった彼女から笑顔をひっぱりだすあの演技!!
………だんだん、誰かに似てきていませんか?(くふふvv)

あああ、見せたい!見てほしい!!このキョーコちゃんの艶姿!!
蓮さん、カムバ〜〜〜ック!!(見なきゃ損!絶対損!!)


年明けの展開がとっても楽しみです。
キョーコちゃんを輝かせるため、松にもまぁ、そこそこがんばって貰うとして(輝いているものを、さらに圧倒する輝きで沈黙させてしまえば、そのキョーコちゃんの印象は激烈でしょう…?くふふvv)
また蓮さん出てこないのかなぁ〜。1コマでも良いから登場してほしいなぁ〜。
次回花ゆめも、展開によっては買いますよ、私。

そして!!二月には6巻発売だもんね〜っっっ♪
マネージャー編。ネタの宝庫でこれは必見!!



2003年12月20日(土) 『初雪』(オガヒカ小ネタ。ヒカル16歳)

今年最後の手合いを済ませ、棋院を出ようとすると、外は雪だった。

「…うわ……寒いわけだぁ」

ヒカルは、はぁ、と息を吐いてその息が白くなるのを確かめる。
その隣で、アキラがばさり、と傘を広げた。
「初雪だね」
「そうなのか?」
「うん。その筈だ」
「そっか」
ヒカルは嬉しそうに微笑むと、降りかかる雪に手をさしのべた。
かすかに伝わる、かすかな冷たさ。
しかしそれはやがてヒカルの掌のぬくもりに、消えてしまう。

「風邪をひくよ」
「ひかないよ〜」
のんびり応えるライバルに、アキラはやれやれ…とため息をついた。

「僕は次の用事があるからもう帰るけれど、君も早く帰るんだぞ」
年明け早々には棋戦がひかえているのだから、体調不良で不戦敗なんてことは、許さないからな、という念を視線にこめ、ヒカルに念押しした後、アキラはそのまま地下鉄へと向かっていった。


さらさらと、かすかな音をたてているような、そんな音なぞたてていないような、雪が、降る。
ヒカルは、棋院のエントランスから一歩踏み出した。その身の全てで、雪を受け止めるように。ふりあおぐと、ほの暗い雲の高みから、とぎれることなく雪がヒカルに向かって落ちてくる。
ゆっくりと。
ヒカルのブルゾンの肩が、背中が、雪の白に覆われていった。

ヒカルは動かない。


「きれいだなぁ……」
そして傍らの存在を降り仰ごうとして、そこに誰もいないことに気が付いた。
もう、彼はいないのに。
雪が大好きだった幽霊は、どこにもいないのに。
普段は分かっている筈でも、時折やってしまう、あの頃の、くせ。
野に咲く花を見かけた時に。木洩れ日の眩しさに目を細めた時に。色づいた木の葉が足下に絡みつく時に。……そして………

……そして、会心の一局を打ちきった時に。

(ねぇ、佐為)

そう言ってふり仰ぐひとは、はるかなる高みに、行ってしまった。
自分が行けるのは、いつになるのだろう。



「そこで雪像にでもなるつもりか」


「へっ?!うわわっ」

気が付くと、そこにはカシミヤのコートをはおった緒方が立っていて、ヒカルの髪から雪をはらい落としていた。
…というより、かき回してぐしゃぐしゃにしているといった方が近かったが。

「ったく、何のためにフード付きのブルゾン着ているんだ、お前は!」
「……いやその…初雪だな〜って……」
「ああ、今朝から冷え込んでいたからな」
ヒカルの言葉に、緒方も空を見上げる。
空から舞い降りる、純白の使者たち。静かに、街を白く染めてゆく。

緒方の唇から、白い息がふわりと漂った。


「綺麗だから冷たいのか、冷たいから綺麗なのか……」




「……え?」


ヒカルが首を傾げると、緒方はかすかに唇を歪めた。

「何でもない。ほら、行くぞ」

そして寒さに真っ赤になったヒカルの手を見つけて、眉を寄せた。
一瞬後、ヒカルの手は緒方の大きな手に包まれる。
「え……」
先程までは、黒の革手袋に覆われていたはずなのに、今ヒカルの手を握るそれは、素手のぬくもりを伝えてくる。
引っ張られるまま付いていくと、駐車場にはいつもの赤いRX-7が見えてきた。
ヒカルは、くすり、と笑う。

「…緒方さん」
「ああ?」

「ありがと」

ヒカルが伸び上がって、緒方の頬をかすめたキスは。


ヒカルの唇のつめたさを伝えるかのように、雪のように淡いものだった。



2003年12月04日(木) 『bigining 2』(スキビ小ネタ)

 キョーコは、うつむいたまま、動こうとはしなかった。
 ぱさり…と、彼女の手から、台本が滑り落ちる。蓮は、その台本を拾い上げた。

「『紅の剣士』…」
 その台本の表紙に書かれたタイトルを呟くと、キョーコはふ…と顔をあげた。
 まだ、涙に濡れた、瞳のままで。

「ええ。一人の女剣士の話なんです」
 蓮は、ぱらぱらと台本をめくっていった。まるで、彼女の話を聞いていないかのように。
「その主人公は…幼い頃に母親を亡くして」
 キョーコも、彼に話しかけるでもなく、淡々と口をひらく。
「父親と弟は、その前に生き別れになってしまっていて。…貰われていった先でも、厄介者扱いされて」

 悲惨な生い立ち。…どうしても、重なって見えてしまう。

「飢饉が続いていた村は、若い娘を神に捧げて、神に助けを求めようとしました。…そして、その生け贄には……身寄りのない、彼女が選ばれたんです」

 そこに在ることすら、許されなかった、彼女。
 許されはしても、…決して、認めてもらえることはなかった、自分。

「彼女は逆らう術もなく…飾り立てられ、祭壇に登りました。彼女はそこで、村人が神と呼ぶものに出会うのです。それは契約を求めました。魂をよこす代わりに、願いを述べよ…と。彼女は震えながら、村を救ってほしい、と頼むけれど、それは首を振りました「それはお前の本当の願いではない」と。
 その言葉に村人は怒り……石を投げ、棒を投げました。何という恩知らずかと。今まで面倒をみてきたこの村を、お前は滅ぼす気なのかと。
 彼女は投げられる石の痛みには耐えられても、村人の言葉は痛いほど心に突き刺さって…しかし、神と名乗るものは、本当の願い以外は聞き入れられないと突き放されて……彼女は、とうとう、口にするんです。彼女の、ほんとうの願いを」

 蓮は、ちょうどその場面の台本を開いていた。

「『何もいらない。…ただ、誰か、そばにいて私を見ていてほしいだけ』?」

「はい……。願いは、彼女が災いをもたらしている108の宝玉を取り戻してくることを条件に、叶えられました。その契約の証として、神から、深紅の刀を贈られて。これをもってしなければ、宝玉は壊すことはできないから、と。……でも」
「でも?」
「その役目を全うする間、彼女は、その剣をくれた者と、一緒にいられるんです。彼女の願いは、叶ったんです」
「そうなるね」
 蓮の言葉に、キョーコは微笑んだ。いつもの彼女とは違う、痛々しい顔で。

「……ここまで読んでいたら…何か、この主人公が、うらやましくなってしまって」
「羨ましい?何故」
「…だって……後の話読めば分かりますけど、この契約した「神様」って、ものすっごく、性格悪いんですよ!人は騙すし、自分に災厄がふりかかなければどうでもいいって感じだし、ものすごく楽しそうに、イヤガラセするし……!」
 力説するキョーコに、蓮はたじろいだ。…そんなことが、羨ましいのだろうか。
「でも、彼は主人公のこと、ちゃんと見ているんです。ちゃんと、彼女のそばにいるんです」

……それが、心底、羨ましい。

 自分が、望んで側にいた人は、私のことなんて、決して見ようとはしなかったから……それどころか、いいように利用されて、捨てられた。
 自分と似ている主人公。
 しかし、彼女の願いはかなえられた。

 しかし、自分の願いは………






 キョーコは、苦く笑いながら、コツン、と自分の頭を叩いた。
「…ホント、馬鹿ですよねぇ……これはお芝居なのに、こんなことで泣くなんて……」
 こんなことは、所詮「つくりもの」だからこそ、ある話なのだから………

――現実では、こんなに都合が良いはずがないのだ。自分がいちばん良く知っているはず。…だから、それが「悲しい」なんて思うのは、間違いなのだ………


「いいや」
 蓮は、台本を閉じるた。
「君が…この台本を読んで泣いたことは、馬鹿なことじゃない」
「え……」
「この本を読んで、泣いたということは、それだけ、この主人公に共感した、ということだろう?」
「あ…はい……」
「その感性は、役者としては大事にするべきものだ。何も感じない、感動のない人間が、他の誰かを演じることなんてできない。できたとしても、薄っぺらいものにしかならないだろう。芝居は…ドラマでも、舞台でも、つくりものであって、つくりものじゃないんだよ」
 蓮は、正面から、キョーコを見据えた。
 彼女は、呆然としたまま、連を見つめている。そんなこと、考えも、しなかった―――

「…まぁ、あまり役に入れ込みすぎることも良くないけれどね。それに………」

………君が気づいていないだけで…、と言いかけて、連は自らの口を押さえた。こんなこと、言うつもりはなかった筈なのに。
…いいや。
(――俺はその後、何を言うつもりだったんだ――?)

 静かに動揺する蓮の様子に、キョーコはひょい、と蓮をのぞき込んだ。
「敦賀さん?どうしました?」
(…なんでこういう所は鋭いんだろうな……)
 内心、ため息をつきながら、蓮は台本をキョーコに差し出す。思わずキョーコは両手を出して受け取った。そしてそれを機に蓮は立ち上がる。


「そういえば……そろそろミーティングの時間じゃないのかな?『きまぐれロック』の」
「えっ……ぁぁぁあああああっっっっ!!!」
「早く行った方がいいよ。遅刻は感心しないな。『坊』」
「すいませんありがとうございましたしつれいしますーーーーーー!!!」

 キョーコは一気にそれだけ言ってしまうと、ダッシュで屋上を後にした。……ただでさえプロデューサーに良く思われていないのだ。遅刻までして、これ以上彼の不興を買いたくない。

「しかし敦賀さん、よく私が出る番組知って……ん?!」

 彼は言った。『きまぐれロック』と。
 そして、慌てていたからあまり聞き取れなかったのだが、自分に向かって、『坊』と言ってなかっただろうか?!にっこりと、あのウソつき笑顔とともに。

 ……もしかして……

(バレてる〜〜〜〜??!!)

 …それは、キョーコの顔が、走りながらも「生けるムンク」となった瞬間でもあった。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!(号泣)」




――そして、彼女はまだ、知らない。

「あの様子じゃ、今日のゲストが誰か、知らないだろうなぁ」
 くつくつと、蓮が楽しそうに笑うのを。
 連は上機嫌のまま、屋上を後にした。










 キョーコがスタッフから本日のゲストを知らされて、絶叫するまで、あと、1分25秒。



2003年12月03日(水) 『bigining』(スキップ・ビート小ネタ)

 これは、お芝居なんだから。
 これは、つくりものなんだから。

 だから、こんな奇跡が、あるの。

 これは、お芝居なんだから。
 これは、つくりものなんだから。


 羨ましいなんて、気のせいだから。
――それがつくりものだって事が、悲しいなんて、気の迷いに決まってるんだから………









 某テレビ局の屋上で、蓮は、見慣れた蛍光ドピンクツナギを発見した。

 打ち合わせに参加したスタッフがヘビースモーカー揃いで、それほど煙草が嫌いではない蓮も、流石にあのうすくモヤがかかったような会議室に辟易し、少し風にあたろうと屋上に出てきたのだった。
 このピンクのツナギを着る者は、2名ほどいるが、今蓮が見つけた彼女は、今時の茶髪だ。
――つまり、例の、彼女。

 しかし彼女は、蓮が来たことも知らず、座り込んで膝を抱え、そこに顔をふせたまま、動こうともしない。
 その様子に不自然さを感じ、蓮は彼女に向かって一歩、踏み出した。




 ため息をひとつついて、キョーコはようやく顔を上げた。
「はぁ…だめだなぁ……こんなのでキちゃうなんて………」
「何が来たのかな?」
「うひゃおわぃっっ??!!」
 声とともに、キョーコの目の前に突然蓮が現れる。キョーコは奇声を上げてとびすさった。
 さっきまで誰もいなかった筈なのに、突如として人が目の前に出現したこと。その上、世間での評価はどうか知らないが、キョーコの中では「関わりたくない男No2」(No1はショータロー)な敦賀 蓮のドアップ。おかげで、キョーコの心臓はヘビメタのドラムよろしく早打ちを展開してやまなかった。
「つつつ、つ、敦賀産?!」
 声がひっくり返って、発音まであやしくなっている。
 蓮はキョーコ曰くの「ウソつき紳士スマイル」でにっこりと、笑った。
「この前、教えたよね?」
 この世界、先輩に会ったらどうするんだっけ?
 キラキラと、まさに輝くような光を放ちながら、それ以上に雰囲気で語るこの圧迫感。キョーコはぴょこん!とその場に正座した。
「お、おはようございます!敦賀さん!!」
(いやそこまで丁寧でなくても良いんだが……)
 キョーコは背筋をぴしり、と伸ばしたまま、まさに「三つ指をついておじぎする」お手本のような動きで蓮に頭を下げた。うわずっている声とはうらはらに、その動作はやわらかく、それでいてぴしりと引き締まった雰囲気を漂わせる。
 確かお茶を習っていたんだったか、と蓮はぼんやりと思い出した。

 そんな彼女の側に置かれた冊子が、屋上の風にあおられてぱらぱらとめくられる。それは、俳優である蓮にとってはごく馴染みのあるものだ。
「…それは…台本かな?」
「あ…はい。養成所に、昔公演したお芝居の台本があったので…勉強のために、貸してもらったんです」
キョーコは台本を取り上げると、それについてしまった砂をぽんぽん、と払いのけた。そして、どこかさびしそうに、その台本を見つめながら微笑む。

「……それで、泣いてた…とか?」
 蓮の一言に、キョーコは文字通り飛び上がった。
(何故っ、なんでっっ!そんな事分かるのよっっ!この人ひょっとして超能力者――??!)
 蓮は、吹き出したくなるのを辛うじてこらえた。…あまりにも分かり易すぎる。
「期待に添えなくて申し訳ないけど、俺は超能力者なんかじゃないよ」
 そして彼は、自分の目元をとんとん…と指で軽く叩く。
「……少し濡れてるし、赤くなってる」

(…………あ…………)

 キョーコは慌てて自分の顔に手をやろうとした。
「ダメだ」
 蓮がそれを遮る。
「不用意に触らない方がいい。こすったりすると、はれてくるから」

「…………………」


 涙を隠そうとしたことも止められて、キョーコは、うつむくしかなかった。


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平 知嗣 [HOMEPAGE]

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