窓を開けると視界一面に青く晴れ渡った空が広がった。
昨夜の天気予報では今一つの空模様だったのが、予想より早く低気圧が去って行ったらしい。
「晴れたね」
窓辺に立つヒカルの隣にアキラが来た。
「良かったよ。雨だと来ないヤツもいるからな」
「それくらいで来なくなるんだったら別にいいんじゃないか?」
今日は棋院で子ども囲碁大会が開かれるのだ。
「良くない。今年はおれも企画の側なんだから盛況で無いとじーさん達にうるさく言われるじゃん」
「天気の責任まで負わなければいけないのか。大変だな」
「他人事みたいに言うなよ、おまえも企画だろ」
「そういえばそうだったね」
しれっと言ってからアキラは笑った。
「うん。正直に言えばほっとしている。お偉方にうるさく言われるのはぼくも嫌だ」
「だろ?」
穏やかに話す二人の間をすり抜けるように、さあっと風が部屋の中に吹き込んだ。
カーテンを揺らすそれは初夏を思わせる爽やかさだ。
「まったく、せっかくのGWなのにな」
「何をいまさら。キミ、結構楽しみにしていたじゃないか」
「そりゃあ…」
外の景色に目をやってヒカルは微笑む。
「たくさんのクソガキどもが集まるんだぜ? 今年はどんなのが来るかなとか楽しみにもなるじゃん」
「毎年来てくれる子もいるしね」
そう言いつつ、二人が五日のこのイベントに加わるようになったのはこの数年のことだ。
それまでは睨まれつつも、ほぼ強引に断っていた。
理由はヒカルがこの日に限り、外に出ることが出来なかったからだ。
「あー、今年は歳に似合わない鬼みたいに強いクソガキでも来ないかな」
「…キミみたいな?」
さらりとアキラが言うのに一瞬ヒカルが目を伏せる。
「さあな。でも居たら面白いじゃん」
もしも居たら絶対そいつと打ちたいよと、ヒカルの言葉にはしみじみとしたものが混含まれる。
「ま、でもおれみたいなのなんてそうそう居ないと思うけどな!」
にやりと笑うヒカルにアキラがため息をつく。
「傲慢なのもそこまで行くと尊敬に値する」
「だろ? しろしろ」
あははと明るく笑うヒカルの背にそっとアキラが手を触れた。
「何?」
「味噌汁。もうついでしまったから早く行かないと冷めてしまう」
「言えよ、早く」
ヒカルは呆れたように言うと窓を閉めた。
その刹那、遠くにはためく鯉のぼりに一瞬目を留めたかのように見えたけれど、アキラは気がつかないふりをしたのだった。
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