主人公哀ちゃんについて改めて語るのは、このサイト始まって以来かもしれません。ていうか、これまで改めて人物について語ったりしたのは、布施と沢登だけだけど(笑)。
読めば読むたび、哀ちゃんは難しいポジションにいるな〜と思います。 元々、突き抜けた天才で、まともに勝負できるライバルさえいないという設定を持っているので、哀川の苦悩や孤独っていうのは、他の人間には理解されづらい。一般の人間から見た哀川っていうのは確実な「勝者」なわけで、もちろん、哀川が他の同世代の子と同じような青春ライフを送りたいと思うのは当然の権利かと思いますが、下位の人間から見たら、それは贅沢の一言で片付けられてしまう側面もある気がします。特に天童寺とかそういう特殊な場所では、仲間や友達なんかいなくてもいいから、一番になりたいと思う子たちがいっぱいいるわけなので。
この「天才」という能力が、哀川最大の強みであり、同時に最大のネックなんですよね。第一部、特に後半からは、天才であるがために、彼が矛盾に苦しめられるようになった気がします。 哀川は、自分のバスケ能力を卑下することはなく、それは終始一貫しています。潜在能力はあれども、第一部の時点では誰も哀川の横に並び立つことはできなくて(藤原だけは微妙な所)特に難しい問題だったのは、哀川自身、それを痛いほど分かってしまっていたところじゃないかな。 結局、第一部っていうのは、哀ちゃんが瑞穂部員を鍛える必要があったと思うのですが、やはりそうする過程で、現実では、哀川が思い描く理想とのギャップが生まれてしまうわけで。
特にその傾向が顕著に思えたのは、成田戦後半、あまりにもふがいない瑞穂部員を前に、哀ちゃんは「おれが3人ひきつける、4対2ならなんとかなるって」って言っちゃうんですよね。これって客観的に見たらかなり微妙で、「いくらお前らでも、4対2ならなんとかできんだろ」と言われてるも同然の台詞。 天才に生まれついたサラブレッドの細胞がそう言わせてしまうのと同時に、チームのみんなと上手くやるためには、試合に勝たせないといけないという強迫観念に脅かされているわけで、哀川は本当は、みんなで勝利するバスケがしたいのに、ピンチに追い込まれて、それとは逆のことを口にせざるをえない。そうしてししまうことで、またひとつ理想から遠ざかってしまう。やっぱり、行動と気持ちが矛盾してしまっていた気がします。えーん、かわいそう。
ところで、第二部の14巻は、地味でありながら私的にかなり好きな巻です。 で、この14巻っていうのは、哀川の大きなターニングポイントになったと思っています。 この帰郷に関する一連の話の中で、私が一番印象に残ったのは、決死の覚悟で頭を下げた哀川を、みんなが振り向きもせずに練習に没頭するシーンでした。 かつての天童寺の哀川っていうのは、他に並び立つ者がいないほどの絶対的なエースだったわけなのに、あの場面で、存在の一切を認められていないわけじゃないですか。これはかなり衝撃の強いシーンでした。そのときの哀川の、なんとも言えない静かな表情がまた印象的で。 余談ですが、あの時、昭彦が下した指示っていうのは、半分はやはり天童寺のコーチとしての職務から来ていると思いますが、あと半分は、弟のためだったんじゃないかなあなんて思ってます。ああすることで、弟の未練を完全に断ち切ってあげたとしか思えない。アッキーは実はかなりイイ人だし(笑)
天童寺を訪問して、傷つくたびに、それとは裏腹に、哀川がどんどん覚悟を決めていくことが伝わってきて、14巻はかなり印象深いです。
結局、哀川に関しての難しいところのひとつに、勿論哀川は悪くないし、哀川の苦悩を理解できない子たちも悪くないというところがあるんじゃないかなあ。 哀川っていう人は、人一倍優しくて繊細で、みんな(もちろん、自分を含め)が幸せになれる方法をここまでずっと探してきたと思うのですが、やはりそれはどうしたって理想論にすぎないことを、14巻で気付かされたのだと思っています。たぶん前から薄々気付いていたんだと思いますが、心のどこかではまだ和解できると信じていたかったんだろうなぁ…。泣かせる(>_<)
14巻で覚悟が決まった哀川は、かなり変わったと感じています。それまでとは変わって、実力で捻じ伏せると決めた完全体哀川は、言い訳一切なしの潔さを発揮。文字通り、最強です。好き!
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