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2004年03月23日(火) 気になる人

 職場の近く、駅ビルの地下にエスニックカフェがある。生春巻きが美味しいので、1〜2ヶ月に一度くらいは会社帰りに同僚と行く。その店に「彼」がいる。必ずいる。同じ席にいる。

 店はシンプルモダンだけれど少しアジアっぽい内装とインテリア。まあ、よくあるアジアンカフェ風の雰囲気で、会社帰りの若い人たちやデート中のカップルなんかが多い。そんな中「彼」は異彩を放っている。「彼」は、たぶん50代、絵に描いたような「くたびれたサラリーマンのおっさん」なのだ。

 私は残業をしないので、6時か、おそくとも6時半くらいには店に入るのだが、その時点で「彼」は既に席に着いてビールを飲んでいる。そしてビールだけを飲み続ける。食べ物を頼んだのを見たことがない。いつも私達の方が先に店を出る。「彼」が帰るところも見たことがない。時々立ち上がって、店の外にふらりと出ていく。何分かして戻ってくる。何か本を読んでいたかと思うと、テーブルに覆いかぶさるようにして一心不乱に何かを書いている。とにかく落ち着きがない。

 店員は慣れているようだ。「彼」が店の外に出て行った間に、黙って空のビールを新しいのに取り替えていたりする。だからといって「彼」と店員が言葉をかわすというわけでもない。

 何度行ってもこの光景が繰り返されている。私と同僚は、だんだん風物詩というか、店のインテリアの一部のように思うようになっていた。だから今日行って「彼」がいなかったので驚いた。つまんないなあと思った。もしかしてもう来ないのかなと思うとちょっと喪失感を感じてしまった。

 そして小一時間ほどして「彼」が店に姿を現わした時、私達はとても幸せだった。いつものようにビールを飲み、席を立ってうろうろするのを見て、なんだかすごく安心した。

 「彼」に関する最大の謎は、何故この店なのか、だ。近辺にはたくさんお店はあるし、同じ駅ビルの中にだって焼鳥屋もあれば居酒屋もある。ビールだけを飲むのに毎日この店を選ぶのは何故なのか。実はこの店のオーナーなのではないか、いや大家かもしれないなどと推理をしてみたけれど、どうもよくわからない。外見と行動からは何者なのかが全くわからない。

 私はいつか、「彼」のテーブルに行って肩を揺すってたくさんのことを問うてみたい。

 なぜ毎日ここにいるのですか?なぜいつもビールだけなのですか?どこに住んでいるのですか?仕事は何をしているのですか?何の本を読んでいるのですか?店から出て行って数分間、何をしているのですか?いつも何時までここにいるのですか?あなたは何者なのですか?

 きっと「彼」は答えないと思う。私もきっと問うことはしないけれど。


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