にのらです。 雨ですなあ。ここんとこ雨が無かったから、恵みの雨なのかも しれませんが、濡れるのは嫌ですなあ・・。
☆ロマスペ好きでエスカ観終わったなずなさま☆
にのらです!やっとお名前がわかってうれしいです。便利便利。 あまりにも同じことを考えていて、ビックリしました! にのらも、時々セレナからディランドゥの人格出てきちゃうような 気がしています!なんか、ムカついた時とかに出そうですよねえ。 シド王子に「叔母上」とか呼ばれた瞬間に「ああ〜っ!??」 と突然壊れるセレナを思ってクツクツ笑っておりました。
↓ちょうど、そんな話を夢想していたので、手直しして載せて みました。ド暗いですが・・・。
【したたかな花 抜けない棘】
壁の白 窓枠の曲線 掛け時計の針の先端 動かせない指先
突然この世に生まれてきたかのような強烈な違和感から私の人生は始まった。 すでに10代を終えようとしている。過去の記憶は無く、それよりもっと過去、 幼い頃のあやふやな記憶は今の私とはなんのつながりも持たない。
「セレナ、気分はどうだ」
この人は私の兄だ。私は彼と暮らしている。 記憶の彼は少女のような子供だったが、私はちゃんと成人した兄を認識した。 彼もまた、私を一目で生き別れた妹とわかったという。 血の絆のような事を言っていたが、面影がはっきりしていただけのことだ。
私の一番古い記憶では、私は彼の腕の中にいた。 あちこちで炎が上がり、戦場の、全ての墓場と化した死んだ大地で。 白い見たことも無いガイメレフが兄の乗ったガイメレフに一撃を喰らわせる瞬間だった。
兄の腕の中で、一度は意識を確かにしたが、しばらく後意識を失った。 次に目が覚めた場所は、懐かしい、とても懐かしい場所だった。 そして私はそこで、兄の完全な庇護の下、今生まれた赤ん坊のような扱いを受けるようになる。
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目覚めて、顔を洗い、着替えを済ませ、食事をとる。 次の食事まで、何もすることがない。兄は時折様子を見に来るが、忙しそうにしている。
私は有り余った時間に夢想した。 思い出せそうで思い出せない、思い出すのが怖い。その感覚をたゆたうのだ。 出来たての瘡蓋をいじるように、自分の深層のギリギリの部分に触れて戯れるのが心地よかった。
毎日そんな事を繰り返しているから、失われた記憶の欠片を追う内に自分の人格のブレを 意識するようになるまで、そんなに時間はかからなかった。セレナではない誰かが 真っ暗なはずの記憶の中に確かに見えるのだ。
「!!」
その記憶は突然現れた。 兄を呼ぼうと思ったが、そのあまりの血生臭い光景に、彼を呼ぶのがためらわれた。
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「この絵は、お兄様と私ね。描いている間は遊べないからつまらなかった。 ・・・昔はずいぶんとかわいらしかったこと」
私が幼かったころの話をすると、兄はとても喜んだ。 本当はほとんど覚えてはいないけれど、兄曰く「とても優しい少女」だったそうだ。 私は兄に悟られないように表情に気をつけながら、ジャジュカを思った。
「優しきセレナに戻ってもいい…」そう言って私の前から姿を消した。 私は優しいという人格が完成する前に狂ってしまったから、 どうしてジャジュカが私を優しいと言ったのかわからない。 私がセレナではなくディランドゥで居続けることで、養育係であった彼の 立場を守り続けていたことで、彼が生かされていたからかもしれないと思った。
ディランドゥと呼ばれていた時の感情も記憶も、消えてはいない。 日一刻増してきて、セレナの人格を襲ってくる。死をもってしても償いきれない ディランドゥのなした罪が、セレナを易々と飲みこんでいくのだ。 だからこそ、覚えていないふりをしなければならなかった。
私を殺させないためにだ。
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生きぬかなければならない。 これは私の戦争だ。戦争が終わった時から始まった。
死後に連れていかれる世界では、かつて私が殺した奴らがてぐすねを引いて待っている。 それを思うと、ぞっとする。また、しばらくはこの世界で生きていく方がましだ。
被害者の、かわいそうな、腫れ物の、無力のでくのぼうのセレナとして。 己の犯した罪を知らないセレナとして。 赤ん坊から再出発を遂げようとしているかわいそうな妹として。
時折、兄が私を強く抱きしめる。不安そうに見えるのだろうか。 それとも、私の罪の想像を超えた重みに耐えかねているの? それでもお兄様は私の罪を背負う覚悟を決められているのだ。 私はそれに委ねるしかない。私に償えるような質量の罪ではないのだ。
セレナ、おまえは何も気にしないでいい。 何も知らなくていいのだ。どうか思い出さないで欲しい。 兄様が守ってあげるから。
とうの昔に思い出している。 何も覚えていないわけではない。覚えていないわけがないじゃないか。 私が何千人…何万人殺したか、わかっておられるのか。
兄という立場だけで肩代わりできるような、そんなものでもないのだが。
雨は上がり、曇天のまま。外はムッと迫る草いきれ。 肌に纏わり付く風は夏の湿り気を帯びて私には重すぎる。 薬品同士が反応して起きた熱で蒸し上がった実験室の地下牢を思い出す。
私を守ろうとするお兄様の空回りに苛立ちながら、生きてきた中で一番堅牢なこの檻を思う。 ここでは私は何もさせてもらえず、罪と向き合うことも許されず、緩慢に死へと近づく。
時折、私の身体中に巻きついたみえない鎖を解き放って、 セレナでもいい、ディランドゥでもいい。この場所から、兄の庇護から飛び出したくなる。
「・・・お兄様には関わりのないこと」
こんな夜はジャジュカに会いたい。
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