 大きなカーブを描きながら階下まで伸びる大階段の 焦がした飴の表面みたいなピカピカの手すりを指で撫でながら 鳴海さんはいつになく表情の変化も控えめにただただ懐かしいと 言った。
「この手摺を滑って遊んだことなんて、今となっちゃ何の役にも たってねえんだけどさ」
せっかく金持ちの家に生まれても、怪しげな探偵社なんかしながら コソコソ隠れ住んでちゃ、ここでの育ちなんて見る影も無い、 と鳴海さんは笑いながら言った。
そうだろうか、とライドウは思う。 世間知らずのライドウでも、少しずつこの世界には身分であるとか、 肩書であるとか、そういうものが無ければ馴染めない空間があること を知った。逆もしかり、良い御婦人は、深川の大衆浴場には 入ってはいけないように、身分があっては立ち入れない場所だってある。 ここ帝都ではそれは顕著に現れた。自分が学生でなければ得られない 情報もあれば、学生の身では入ることも憚られる場所もある。
鳴海が生家だと言うこの西洋風の屋敷に、鳴海はそこに何十年も 居座り続けていたかのように、ライドウの目にはしっくり映った。 それは、もしかしたら鳴海には不本意なことであるかもしれないし、 とかく隠し事の多い身には危険なことでもあるのかもしれない。
でも。
「そこら中に鳴海さんが乱立して見えます」
正直に、思ったことを言うと、鳴海は不機嫌に眉を少し寄せた。
「ミスターライドウは少し日本語をお勉強した方がいいデスね 人をオバリヨンかチェルノボクみたいに言うもんじゃないぜ? 俺様の幼少期はそれはそれは可愛かったんだからな!」
どうせライドウのことだから、目の前のオッサンをそのまま縮めた みたいなガキでも想像してんじゃねえの?と、言うから、ライドウは 慌てて訂正した。
「間違えました。小さな頃のかわいい鳴海さんがあちこちで 走り回っている様子が手に取るように想像できます」
まじかよ、と笑いながら鳴海が漆喰のヒビを見つけて気にしている間に、 小さく呪を唱えながらコートの下で冷たい管の栓を緩めた。 小さな頃の鳴海を見せる役目を終えた仲魔が「上手くやれよ」と 言いながら管に戻っていく。それに帽子の鍔を降ろすことで答えながら 「(上手くやるって何だ)」と少しだけ迷って、ライドウはつづけた。
「まじです。 ちなみに立派な屋敷で不自由なく育ったせいでお金の管理が だらしない鳴海さんも、ボサボサ頭で起きてきて尻を掻きながら 新聞を読むだらしない鳴海さんも、全部僕は大好きです」
鳴海さんは凄まじく妙な表情をしながら、
「俺ってそんなにだらしない?」
と聞くから、思わず笑ってしまった。今まで言うことが憚られて いたけれど、仲魔が見せてくれた幼いころの鳴海があまりにも かわいらしかったので、ついつい安心して正直になってしまった ようだ。鳴海も怒った表情を見せながらも笑っているので、 ライドウは今日この場所に連れて来てもらってよかったと、 改めて鳴海に感謝した。
にのらです。 行く前にバタバタ忙しくて、なかなか日記を書けないままに、 箱根と鎌倉に行って帰ってきました。箱根のホテルはナルミンの お花畑で(現代では身分の低いにのらでも泊まれました)、 鎌倉では最近テニスの傍らでボクシングを習うことによって 「両立おもしろい」事に気付いてサーフィンを始めた千石清純の 物語にひとりクツクツと笑っていましたが、いかんせん、母ヨシコ が引くほどイビキをかいたせいでほとんど眠れず、重度の睡眠不足 なので、感想はおいおい・・・。
鎌倉情報下さった方々、本当にありがとうございました! リクエストもいただき、せっかくなので撮ってきた鎌倉の写真 などと合わせてお返事させていただきます! あと、メールのお返事のお返事もさせていただきます・・・! (遅くなっていてもうしわけないです)
まじで眠たい。のに、明日は茶屋町に19時集合(Y子より) らしいので、もう何が何だかとにかく寝ますよ!!
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