にのらの日記

2007年03月02日(金) 得たこと


元親は海賊である。
従って彼の寝床は海草を束ねて作った火矢よけの水松盾の腐臭であるとか、
大きな鉛の玉の上に縛り付けられたような背中のたわみが急速に
落ちる感覚であるとか、要するに、陸に生きる常人にとっては
およそ居心地が良いとは言い難い海賊独特の棲家が主であり、
幼い頃の船酔いを克服した陸ではちょっとばかり臆病であると自認
している元親にとっては海は一番安心できるゆりかごでもあった。
文字通り「波を枕に」である。夜中も夜明けも関係なく潮は動き、
風は数種類の匂いを届け、音の無い空間などどこにもなかった。

吉田の城の夜明け前は、静謐だ。神経質な暴君国主に恐れをなしたかの
ように鳥も獣も何もがしのび足で通り過ぎていくのかもしれない。
元就の前には、吉兆を知らせる白い鹿であってもその必要性が無い
時にはそこを遠巻きにしているに違いない。

珍しく、目覚めまで共にいた。昨晩少々杯を重ねすぎ、腰を上げるのが
億劫ながらも素面の元就がいつまでも酔いどれを部屋にかくまってくれる
わけもなく、足蹴に追い出されようとしたときに聞いたくしゃみの
間の悪さが妙に可愛く思えて(下心はすでに熱を孕んでおり、引き金は
何でもよかった)半ば自分の肩で元就を床に押し付けての袂に手をかけた。
元就は少し鼻水の垂れた顔を真っ赤にして抵抗したけれど、
抵抗しながらも肩甲骨を自分の好い位置にずらしながらの応戦だったから、
半ば諦めてもいたのだろう。当然良い様に解釈させてもらう。
しかしながら諦めた元就は輪をかけて淡白だ。そんな時に相手に
すると、結局自分だけが達してしまうこともままあった。最初は失態
と思ったりもしたが、相手が元就であるというだけで、それも大いに
有りうるものであるという折り合いがついた。枯れ木のくせに火のつき
は悪い。

目覚めて初めて、そのまま眠ってしまったのだと気付いて驚いた。
青ざめた元就の顔が鼻先がくっつきそうな位置にあり、その顔色の
悪さに吃驚した。死体、それも、生温かいので死にたて、と添い寝
しているような気持ちになったのだ。色白の女でも(あと自分でも)
いくらなんでもここまで暗い肌色に陥ることはない。

「・・・・あ、」

少しだけ、聞こえるように声を上げてみた。生存確認ではない。

だって、夜明けが近い。起こしてやりたい。

元就は起きてまず、東の空と厳島に向かって念仏を十唱える。
そして日輪の光をその体に浴びて、ようやく朝をすがすがしく
迎えるという手はずだ。この不可思議なほどの顔色の悪さを
どうにか人目に見れるようにするためには、きっとその日輪の光
を浴びるしかないのだろう、と元親は思い立ち、元就を起こさねばと
思った。それはきっと、草木に水が必要なくらい元就には重要な
ことなのだ。あの隙間に弁当でも隠せそうな兜がそれを何より雄弁に
物語っているじゃないか。

そこでようやく、宵っ張りの自分にしては随分早い朝を迎えたな、
と気付いた。

酔って盛って眠ったまま素っ裸で鼾を立てた元親はすこぶる元気
だったけれど、酔いもせず、盛られ、自分の床で眠られ、その
邪魔者に何とか服を着せ、汚れた自分の体を清めて着衣を整え、
辛うじて布団に残されたわずかな空白に身を落としつつも鼾に
耐えた元就は、なるほど顔色も冴えないし、起きられないわけである。
申し訳ないと思い、なんとか起き上がって外を眺める元就の側に
控えるように座り込んだ。髪は乱れっぱなしで着衣もだらしない。
声は一度もかからないし、目も合わない。居ない者と考えたいん
だろうなと思った元親は、その責任は自分にあると分かっていたので、
素直に体を縮めたまでである。


・・・にのらです。
ひどく眠い。なぜなら、やっとハルヒを見終わったからにゃの。
寝ますい!!


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