にのらの日記

2006年04月25日(火) 出会い編・・・エヘヘ

説明代わりに与えられた1枚の写真。
随分寝ぼけてみえるのは、撮った人間の腕の未熟さと思いたい。

「この男が鳴海だ。これから世話になる」
「眠そうな面構えをしている」
「これで中々抜け目無い男と評判だがな」
「成功してるように思えないけど」
「まあ、おいおいわかるだろうな」

たとえおいおいこの鳴海がどんな立派な男と分かったとしても、
生身の人間の力を借りなければならない事実にライドウは少し
不貞腐れていた。一人前とは名ばかりかい。

銀楼閣。
帝都に建設されて間もないビルだ。
ゴウトとライドウの修行の拠点となる。


それは中等学校の新学期も始まろうとする桜の舞う日曜の朝だった。
立派な構えの建築物に、思わず襟を正し、目を細め、新しい建具の匂いの
する廊下をまっすぐ奥まで見た。

窓の格子から、切り取られた町並みが見え、思ったより明るかった。
始めてみる洋風の建物の中はどれをとっても新鮮で美しい。


ゴウトに付いて、目指す部屋の前で足を止める。
中から中年の女性の声が響いた。

「鳴海さん!あなた何ヶ月家賃を滞納していると思ってるの?
 いい加減にしないとひどいわよ!」

つづいて、なにやら情けない男の声。

「今度、今度ね!大きい依頼が入ってるからさ!」

しばらく問答が続いた後、女性の足音が近づく。
ゴウトがドアーから飛び退る。
ライドウも少し身を引いた。

「アラ!坊や、ずっとここにいたの?」

坊やと呼ばれてムッとしながらも返事をしようと口を開きかけたら、
奥から助かったとばかりに男の声がする。

「!よう。君が十四代目のライドウかい?」

振り返った女性は、「もう!」と一言だけ発すると、ライドウを一瞥し、
「大きい依頼って迷子じゃないでしょうね?」とだけ言った後、
あーあとため息をついて首を振りながら去っていってしまった。
話をしそびれたライドウは、仕方がないのでドアーをくぐり部屋の奥の
男に目を向けた。

明るい室内に高い天井。
曲線の美しいランプに大きな書棚。
窓の格子が机と床に影を落としている。

その大きな窓を背に、男は座っていた。
クシャクシャした髪はアゴのあたりまで伸びて、うっとおしい。
体格も立派では無いし、少なくともライドウの脅威になりそうな力は
感じられなかった。少し弛んだ目蓋も日焼けの跡もない肌は一日の大半を
ここで惰眠に費やしているのを感じさせる。

着ているものが立派でなければ、事務所に入り込んだ泥棒と勘違いして
つまみ出しかねなかった。

ただ、それに反するかのように、彼の周囲に並んだ書籍はどれも
ライドウの知る由もない難解な言葉が書かれていたし、
中には外国のものもあった。

扱った事件ごとに分けられている調査書らしきものは整然としていて、
この男が見かけによらず几帳面であることを教えていた。
反面家賃の滞納を責められていて、今のライドウにはこの男が
一体どれほどのことがあってこんな立派なビルに間借りできてるのか
想像がつかない。

なんで俺はこんなところに派遣されたのだろう。
正直、今までの修行を越える厳しい場所に放り込まれる覚悟でいた。
なのに前にいるこれから世話になる男はこのざまだ。
戦いとは無縁の間の抜けた空気。ライドウは拍子抜けした。
頭が痛くなる思いだった。

「ライドウ、この男が鳴海だ」
足元でゴウトがささやく。
言われなくても分かってる。
一瞬人違いかと期待したけれど、目の前の男が鳴海でなければ、
さっきの取立て女が頭ごなしに叱り付けていた鳴海さんってのは
誰だってんだ。

「始めまして。厄介になります」
ぶっきらぼうに聞こえないようにライドウは頑張った。
鳴海は口の端を持ち上げて片手だけヒラヒラさせた。

「俺は鳴海。カラスのねえさんから聞いてるよな?よろしくな」
立ち上がりもしないで挨拶か。こっちが子供だと思ってなめてかかってる。
いいさ。俺が葛葉に認められるようになったら速攻こっから出てってやるさ。


「ライドウ君、珈琲、飲める?」
「いただきます」

ライドウは珈琲なんて飲んだことはなかったけれど、例えそれが毒汁で
あっても飲めないなんて思われたくないと思った。


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