腕をくにゃりと曲げて、 妙な姿勢で横になっているとき、 このままミイラになったら面白いな、 化石になったら後世の人が笑うか、 と思う。 ミイラになるとしたら、 このおっぱいもなくなるのか、 と、指でつついてみたら、 プシュウと空気が抜けていく気がした。 いや、これは本当のことなのだ。 私は確実におばあさんになってしわしわになる。 その前にも、30代になったら体の形が変わるだろう。 いまの形はつかの間の夢か。 ああ、だめだ。このことを考えるのは。 宇宙の芯に吸い込まれそうだ。 このことを考えるのは怖すぎる。 考えてはいけない。 空気の抜けた後の体が、彼方にふっとんで行く。 ブラックホールに飲み込まれそうだ。 何でこんなに怖いのだろう。 実は体型に自信があってそれがなくなるのが怖いのか、 あるいは、 女でなくなることが怖いのか。 いや、 おっぱいだけでなく、 脳みそだってなくなるのだ。 いつかは中年女性のような考え方をするようになるのか。 そして消えてしまうのか。 私は幻影。 クリオネのように半透明の体に感じる。 おっぱいは、幻影。 二本くっ付いている足は、 どこへも歩いて行かないから、幻影。 手は、パソコンしかいじってないから、幻影。 髪は、もうすぐばっさり切ってしまうから、幻影。 目は、コンタクトを通してしか見られないから、幻影。 舌は、舌ばかでおいしいものがわからなく、雰囲気で「おいしい」とか言ってるから、幻影。 睫毛は、マスカラを塗るから、幻影。 おへそは、使っていないから、 最初から使っていないから、生まれていないから、幻影。 例えば、ここに赤ちゃんの写真が一枚ある。 この赤ちゃんが私であるという証明はできるのであろうか。 私は赤ちゃんではなかった。 最初から幻影だった。 若い気でいるけれど、今も私はおばあさん。 私は半透明。 くらげ。 あの、大量発生して漁師を困らせている、 魚の網に引っかかっている、汚い半透明の。 あれが私だ。 女でもない。男でもない。思考もない。 この瞬間も私はおばあさん。
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