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『微炭酸ニッキ』  山崎ナオコーラ

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魔法の手
2003年10月23日(木)

私の家のベランダに鳥肌が立つほど大きく、鮮やかな色彩の女郎蜘蛛が棲んでいる。大きな巣を張っている。

女郎蜘蛛はなんで女郎なんだろう。

が、それはまあ構わないで置く。

洗濯物を干すときに、いつもどきどきしながら干す。彼女の近くには干さない。
離れたところに干しながら、ちらちらと目をやる。
見ているととても不思議な気持ちになる。

母も気がついてはいるのだろうが、ほっといているみたいなので、私もほっとく。

巣は大きくなる。

巣にかかった虫を彼女は食べる。

彼女だけは巣にひっかからない。
糸の上を緩慢な速度で動いて行く。

どうして彼女の手は糸にからまないのだろう。
特別な手なのだ。
魔法の手だ。

そういえば私たちも魔法の手を持っている。
自分の空想の中では、自由に動き回れる。なんだってできる。でも、
他の人は私の空想の中で、私の想像の動きしかできない。
私は私の空想を大きくすることも小さくすることも、世界そのものを移動することだってできる。でも他の人に私の世界をどうこうすることはできない。

そして、人の世界は私には変えられない。
人の空想の中に私が登場できたとしても、私は私のとりたいような行動はできない。
人が考えること、感じることに対して、私は完璧な無力だ。
でもその人は魔法の手で、自分の世界を素晴らしく作り上げ、すいすいと渡って行く。

それは自由なんかじゃないかもしれないし、悲しいことかもしれない、わからない。

でも魔法の手があるのは本当で、その効力がある中だけでも、それを駆使して、何が悪い。




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