Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review
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2015年03月08日(日)

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亀井勝一郎

函館八景
一、寒川の渡。
函館山の西端、即ち湾の入口にのぞんだところに、寒川という小部落がある。ここは町の西端ではあるが、全く町から孤立して、置き忘れられているような淋しい部落である。そこへ行くには穴間というところを通らねばならぬが、この穴間は高さ五十米ほどの海洞窟なのである。奥行はどれほどあるかわからない。海水は深く紺碧に澄んで、魚類の泳いでいるのが上からはっきり眺められる。洞窟の中にはこうもりなども住んでいる。ちょっともの凄い感じのするところだ。波の荒い日など、押し寄せる怒濤の渦巻が洞窟深く流れこみ、また白い牙をむいたような泡をたてて吐き出されてくる。洞窟は呻くようなすさまじい音を発するのだ。
この洞窟に針がねだけでつくった釣橋がかかっている。釣橋と云っても橋の体裁はむろんない。上下に併行した二本の太い針がねがわたされているだけで、上の一本につかまって、下の一本を渡るのである。脚元には渦巻く海水があり、頭上には断崖、眼前には深い洞窟が口をひらいている。この渡を渡って寒川という部落へ行くのである。函館の町の中に、こんな未開のところが一ヶ所残っているのだからめずらしい。真夏など裸体の男達が、この釣橋を渡っているのをみると、ふと南方のジャングルの土人の中に生活しているような錯覚を起す。私はこの原始の風景を愛した。
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悲しき配分 鷹野つぎ 夫の空罅



Niseko-Rossy Pi-Pikoe |編集CDR寒山拾得交換会musicircus

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