Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review
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2014年02月07日(金) 岩崎洵奈ピアノ・リサイタル@かつしかシンフォニーヒルズアイリスホール




NHKラジオの「音の風景」(これは無形文化遺産だと思う)でニセコの雪を踏みしめる音にみみをすまして。続いて「リサイタル・ノヴァ」で聴こえたショパンに、瞬時に51年間のショパン嫌いが融けて、夜勤明けの川越街道にウインカーをたててみみをすました、昨年の2月22日。CDを買おうと調べてみると、放送された音源はCDではない入手できない収録音源。

そして「2010年、第16回ショパン国際ピアノ・コンクール」二次予選の動画(http://nicoviewer.net/sm12418514)を見つける。この、大舞台で緊張しているはずなのに、音楽の呼吸に寄り添って、そこに視える音楽に鼓舞されて、なだらかな雪の斜面を息が詰まるような正しいカーブに導かれて弾いている、そんなピアノに唖然とさせられる。

ついに今日、ラジオで聴いた日から1年、岩崎洵奈のピアノを最前列で聴くことができた。

椅子に座って、誰にともなくにこっと微笑んで、うなずいて、中空を見上げて。彼女の場合、沈黙の配置の呼吸からすでに音楽になっている。ピアノ・タッチも的確、速度、強度、リズム、ショパンコンクールトップ通過から3年、テクニックに申し分はあるはずがない。わたしが当初から感じていたとおり、あの音楽の呼吸のありようが萌芽であったものがしっかりと完成形になっているようだった。

プログラムは高度な大曲とフレンドリーな名曲が交互に。葛飾区は母親の地元で自分は近くの赤十字病院で生まれたこと、現在学んでいるウィーン市フロリズドルフ区と葛飾区は友好都市提携していること、に、集まったホームグラウンドな聴衆への配慮もある。

調べてみてやっぱりと思ったのは、ショパン・コンクールの1次でトップ通過した岩崎洵奈(http://iori3.cocolog-nifty.com/tenkannichijo/2010/10/2010-yesno-0237.html)。それはすでにコンクールという競技の器からははみ出るものだった。ショパン国際ピアノ・コンクール、ディプロマ賞受賞。マルタ・アルゲリッチの賞賛。アルゲリッチはコンクールの得点なぞ眼中にないその触手で、岩崎洵奈の可能性を確かに捉えている。

ショパン・コンクールといえば、傑作マンガ『ピアノの森(一色まこと)』の世界しか実は知らない。主人公の天才少年イチノセ・カイのピアノは、わたしの耳の見立てでは世界の岡田博美である。シフでもピリスでもポリーニでもペライアでも、ましてやアファナシエフでもない。(そういえば積年の野島稔は一度聴かなければならないが・・・、あ!4月によこすか芸術劇場で聴けるぞ!ベートーヴェンのピアノ協奏曲かあ、まあいいや、S席1枚!、ああ、いま検索してみて良かったー。)

岩崎洵奈のピアノは『ピアノの森』で描かれるに相応しい特別な輝きを備えている。彼女のピアノに照準を合わせると、他の奏者はかすんでしまうのだからそれはヨーロッパにとっての死活問題だったろう。

ピュアネス、しなやかな強さ、音楽の波、呼吸・・・。決め!決め!決め!でポイントをクリアしてゆくような、またはそこに優雅なタッチなり、文章でいえば決めセリフをどう見事に配置するか構成するか、に、傾くのではなく、そういうラインの芸術点は欲しがらずに。彼女のピアノは句読点のなだらかさの読みを持続させてゆくことに集中している。それは、健気なくらいの旅路だ。

・・・こないだのはしたないゲキチではない。20世紀最高カンペキのポリーニではない。透明な響きのやわらかさの中に重力を失うピリスでもない。その定規で測るようなピアノを彼女はそもそも求めていないのではないか。清楚で潔白でおしとやかで、「ちゃんとわかっていて用意してくれている女性らしさ」というのがある奥千絵子のピアノ、と、形容する枠組みには近しい場所にあるかもしれない・・・。

いろいろピアニストの記憶を辿ってみているのだが、彼女は現代のアルフレッド・コルトーではないか、そう直感するのである。もちろん彼よりもタッチは的確で透明である。

ぼくは岩崎洵奈のピアノを何時間でも冷めないで聴くことができる。それは謎でもあるからだ。そうだ、3日にトリフォニー聴いてきたばかりのエリソ・ヴィルサラーゼのシューマンに感じた自在の境地にも通じている、生命感といったものでもある。

ここにきて音楽の友1月号、月刊ショパン1月号、週刊新潮12月26日号、音楽現代2月号にインタビュー記事が掲載され、今日のリサイタルはほぼ満員御礼。夜半の豪風雪予報にかかわらず単独で来場する眼光鋭いマニアも多かった(おれのことか?)、要注目のピアニストだ。

わたしにとってのクラシック・ピアノ世界ランキング1位はもちろん岡田博美である。2位はアンドラーシュ・シフである。そして3位は、岩崎洵奈だ。この3にんが同日にトリフォニー、サントリー、紀尾井でリサイタルという未来は確実にある。もちろん紀尾井のじゅんちゃんを聴きに出かけるつもり。




Niseko-Rossy Pi-Pikoe |編集CDR寒山拾得交換会musicircus

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