Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review
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2011年10月28日(金)

テキスト一時存置 2011.12.09


CDレビュー

Motian Sickness “for the Love of Sarah”– The Music of Paul Motian

Jeff Cosgrove ds, John Herbert b, Mat Maneri vla, Jamie Masefield mandolin
Recorded February 2011

1. Dance
2. Conception Vessel
3. The Storyteller
4. From Time to Time
5. The Story of Maryam
6. Mumbo Jumbo
7. Arabesque
8. For the Love of Sarah
9. The Owl of Cranston
10. One Time Out

乗り物酔い。motion sickness をかけて、motian sicknessモチアン症候群、と題されたポール・モチアン作品集。このCDを入手して、モチアンの容態が良くないときき、ついに死んでしまったのだから、そんな記憶が刻まれた音楽にわたしにはなってしまった、シャレんなってねえだろ。

そんなことは忘れて、これ、実にいい。ヴィオラとマンドリンの音色の異化効果もあってか、単に作品集という意義を超えてバトンされるモチアン・ミュージックのコアが聴こえるものだ。

現代ジャズ界の北斗神拳、尊父ジョー・マネリ(サックス)の微分音ジャズを一子相伝するマット・マネリ(ヴィオラ)。モチアンのトリオ2000+Twoで活躍していたし、Winter & WinterからCDも出ているよ、その演奏センスは抜群だ。

ルーマニアの作曲家ジョルジュ・エネスクをオマージュしたプロジェクト『Enesco Re-imagined』をルシアン・バンと企画したり、フレッド・ハーシュのトリオで弾いていたり、自身のリーダー作『Spiritual Lover』ではブノワ・デルベックを起用したりと、玄人好みのピアニスト、それぞれ音楽言語が異なる、と、センスの目くばせをしあうベーシスト、ジョン・エイベア(彼のサイトは検索しにくい、ハイコレ、いい画面でそ>http://www.johnhebert.com/)。

このニューヨークの働き盛り、それでもまだ新進扱い、の二人をセレクトしたのはリーダーのジェフ・コスグルーヴ。ワシントン在住のドラマー。ドラマーゆえにモチアンとの共演は果たせぬかな、モチアンのコンポジションを10曲集めてリスペクトだ。奥さんの名前がサラさんで、ちょうどいい曲名のモチアン・ナンバーもあるではないか。取り上げられているナンバーは、すべてリーダー作のタイトル・トラック級の曲ばかり。それにしても、このコスグルーヴさん、モチアン・スピリッツありぃの、じつに巧みである。

こないだ世界レベルでも最先端にあるギタリストの市野元彦、みんなライブに行って確認すること、渋谷毅・外山明と文字通り最高峰のトリオだってあるんだぜ、の、オリジナル・ナンバーなのに、知らず「お、これはモチアンの曲ではないのか?」と思ったことがあった、本人にきいたらモチアンのコンポジションにも惹かれているとのこと、そう、こういうふうに音楽は継承されてゆくのだ。

アマゾンでも買えるし、CDベイビー(http://www.cdbaby.com/cd/motiansickness)でも買えるよ!さっき、月光茶房で益子博之さんと現代ジャズ2011年を振り返っていたけど、益子さんも太鼓判を押してますよ、このCD。

マンドリン奏者のジェイミー・マセフィールドは93年から「ジャズ・マンドリン・プロジェクト」という活動をしている大御所のようだ。ジャズ・マンドリンの復権、と言ってもデヴィド・グリスマンみたいに楽しさ100%ではなく、かなりの達人インプロヴァイザーと見た。

(多田雅範)






★年間ベスト国内


『Luz do sol (ルース・ド・ソル) 太陽の光 / 平田王子、渋谷毅』 (Soramame Record)


ボサノバの作品なのである。らしいのである。平田王子(ひらたきみこ)さんがギターと歌、そして渋谷毅がピアノ。現代ボサノバ耳でどのような判定かはわからないが、実に透明でナチュラル、この女性ヴォーカル、日本人だよね?って感覚的にわかる向きもあるが、それが本場への至らなさに聴こえるのではなく、オリジナリティに至っている気持ちよさがいい。あ、Jazz Tokyoには望月さんによる素晴らしいレビュー(http://www.jazztokyo.com/five/five782.html)もありますね。

そしてやはり、耳は渋谷毅に痛みも無くさっさと斬られるあずみ(小山ゆうのまんが)の刺客のように、で、なんでこんなにいいのだ、説明できない!と、毎日聴いているのだ。

それで、CDのラストに渋谷毅作曲山上路夫作詞「生きがい」、1970年、由紀さおりの7枚目のシングル、が、収録されている。あったな!この曲、リアルタイムで聴いてるよー、ガキの頃ながら「こんなふうに女のひとに好きになってもらいてえな、でもなあ、なんで別れてしまっているんだろうなあ、別れてしまっているのに女のひとがそれでも生きがいだなんて、男としては、・・・怖ええなあ!」などと、来るべき異性関係を予習していたものだ。が、このメロディー、渋谷毅、こそ恐るべし。坂本九「見上げてごらん夜の星を」の編曲も渋谷さんだった、とか、芸大の附属高校作曲科は菊地雅章との三人だったとか、浅川マキの「無題」は清水俊彦の詩と渋谷毅作曲だとか、あとから知ったけど。

由紀さおり。中古盤屋で「夜明けのスキャット」を手にしたオレゴンのジャズバンド「ピンク・マルティーニ」のリーダーが、本人と共演するようになって、『1969』というCD作って、世界的に売れている2011年だという。世界に「夜明けのスキャット」の世界はわかるのだろうか。あの動かし難い世界観、戦後、高度成長期、を経ての1969年に聴いた日本人たちが感じた衝撃は、どうなの?、

ルールールー、ルールールー、ランランラララー。これは、のちに宮崎駿監督が幼いナウシカに歌わせたルーツだと妄想する。「愛し合う そのときに この世は 止まる の。時のない 世界に ふたりは ゆくの よ。」ここでの「の」と「よ」の発音の深さ、これが20世紀最大の遺産だとわたしは思う。当時小学校3年生だったわたしは、「なぜだ、なぜ、あいしあうときに、とまるんだ?ほんとにそんなところへゆけるのか?」と母親に抗議するように問い詰めたものだが、「アンタ、また子どもなんだから、余計なことを考えなくていいの!」とマジゲンコツをもらった。エンディングはこのようになっている。「愛し合う 二人の 時計は 止まる の よ。 時計は 止まる の。」はじめの「止まるの よ」は、まるで甘えるように、いっしょにいくのよと約束するように、ほんのわずかおしりをうえにむけるように歌われる。つぎの「止まるの」は、女神が真実を語るように、厳粛な宣言をくだすように歌われて、この歌が閉じるのである。ですからですね、はたちの由紀さおりが歌わなければ、

「夜明けのスキャット」はイエローモンキーがその最盛期1995年に出したシングルのB面でカバーしている。吉井和哉の出自を明かしているような名演だ。

由紀さおりから渋谷毅に戻そう。

■ここに「(蝶々在中)」のジャケ写を配置してください

95年は、わたしはJポップでは小沢健二を、ジャズではベーシスト川端民生を、追っかけ状態であったのです。オザケンはCDあるし、渋谷の王子様でしたが、川端民生はCDは知らずにライブで惚れたのでした、ネイティブ・サンのメンバーだったことを知ったのはずうっと後で。

96年に小沢健二が渋谷毅、川端民生とのトリオで、つまりピアノとベースだけの歌伴でのシンプルな『球体の奏でる音楽』を発表すると知ったときは、世界をつかんだ気持ちになりました。この3人でのライブでの「天使たちのシーン」なんて・・・。

渋谷毅と川端民生は、98年に吉増剛造の朗読、フランスの越境ギタリスト、ジャン・フランソワ・ポーヴロス、とのセッションを行っている(http://www.jazztokyo.com/best_cd_2007/cd2007.html)。その頃の、二人のデュオ録音が今年CD化された。

ベースとピアノというとヘイデン〜ジャレット『ジャスミン』の記憶が新しいが、タガララジオ12(http://www.jazztokyo.com/column/tagara/tagara-12.html)をはげしく参照、お、おれ、名盤だと書いてるよ、さあ、どうだ、『(蝶々在中)』もかなり近いシチュエーションで二人の奏者は奏でているのであるが、軍配はどちらに、物言いがつきました。おれはひそかに、このリリースは渋谷のジャレットへの批評になっているとおれは思う。

というわけで、2011年日本ジャズのMVPは渋谷毅である。

(蝶々在中) / 渋谷毅 川端民生 (CARCO-0014)

1. 蝶々 (てふてふ) [Takeshi Shibuya]
2. が、とまった [Takeshi Shibuya]
3. There Will Never Be Another You[Harry Warren]
4. You Don't Know What Love Is[Gene de Paul]
5. Lover Man [Roger ''Ram'' Ramirez, Jimmy Sherman]
6. Body And Soul [Jonny Green]
7. Misterioso [Thelonious Monk]
8. You Don't Know What Love Is [Gene de Paul]
9. 無題 (Beyond the Flames) [Takeshi Shibuya]

制作・販売:(株)林泉 



★年間ベスト海外

『out of this world’s distortions / Farmers By Nature』(AUM Fidelity 067)
Gerald Cleaver ds , William Parker b , Craig Taborn p

家政婦のミタ、見た?視聴率絶好調、主題歌「やさしくなりたい」、耳ん中リピート、ギターのキンキラアレンジが秀逸、を、歌う斉藤和義、原発を批判したセルフ替え歌「ずっとウソだった」、痛快だったな、城南信用金庫は原発縁切りを宣言してるし、いくぜみんな、ぶっ潰してやろうぜ、・・・へ?α線核種?ってなんだ、放射能防御プロジェクト(http://blog.goo.ne.jp/nagaikenji20070927/e/dce6faeabbe3913408299051366c4b66)、

・・・ベラルーシで、チェルノブイリの被害者の治療に当たっている、現地の専門家は、「日本の皆さんには、申し訳ないけれども、チェルノブイリのときには、γ線核種がほとんどで、それでもいろんなことが起きましたが、それを超えるα線核種がかなり広範囲に広がっている以上、東日本のかなりのエリアは住むことは、難しい」と話しています・・・

来年の年末に2012年現代ジャズを振り返られたらいいよな、みんな。

という前書きで始めよう。2011年の現代ジャズ。

今年もニューヨークジャズの聖地ヴィレッジ・ヴァンガードの年越しはバット・プラスかあ、どうも大味でお子様向けな気がするがビートの新風は容認できる。で、年が明けると、ブラッド・メルドー、クリス・ポッター、フレッド・ハーシュ、マーク・ターナー、カート・ローゼンウィンケルが、それぞれ自己のユニットで三役揃い踏みをしているという2012年が見える。ここがメインストリームだ。

現代ジャズの動向は、まずタイショウン・ソーレイが、マルサリス、スレッギルに対抗する自己のユニットをどんと出してきたこと。次に、サックスは王者マーク・ターナー、対抗クリス・ポッター、トニー・マラビーという地勢図を、ぐぐっとクラリネットとサックスで全面改訂しそうなサウンドを奏でるクリス・スピードが台頭してきたこと。ピアノではクレイグ・テイボーンが「ピアノ・ソロの革命がまたもECMから」と言うべき作品を問うたこと。この三人が今年の顔にふさわしいだろう。

このクレイグ・テイボーンのピアノ・ソロ『Avenging Angel』(ECM)、完全ピアノソロが可能だったとは、と唸ったおれなので本作を年間ベストに挙げようと考えていたが、このテイボーンと、魔王ウイリアム・パーカー、新兵器ジェラルド・クリーヴァーとのファーマーズ・ネイチャー(Farmers By Nature)名義の忘れ難い『out of this world’s distortions』(AUM Fidelity 067)を掲げることにしたい。まさに現代の最高峰が顔を合わせたセッションだ。ウイリアム・パーカーのベースについては、かつて小杉武久が形容した「惑星のような存在感」を引用して、そうそう!と言いつけるしかないでいるままだ。

この盤については音楽批評・福島恵一のレビュー「世界の歪みから生えるポプラの樹」(http://miminowakuhazushi.dtiblog.com/blog-date-20110810.html)の動かし難い記述を・・・、

・・・福島兄についてはこないだジャズ評論家後藤雅洋師も世代最強の批評家だと認めておられたし、虹釜太郎さんも「福島恵一さんの単著を読む中学生の未来」(http://d.hatena.ne.jp/toxicdragon/20100507)と。わたしも、2001年アウトゼア誌8号に福島兄に寄稿いただいたイタリアのジャズ、インプロ、現代音楽シーンを駆け巡った本格論考「長靴の中の小石-伊太利國辺縁音楽紀行」、図版と註をつければ岩波ブックレットになるくらいの密度、これはそのまま英語やイタリア語に翻訳して海外で評価されたほうが早いかもしれないな、21世紀のリスナーに読んでもらおうと復刻しますね。・・・

1曲目の「For Fred Anderson」で交わされる、深い追悼の感情と希望を漂わせる静かで耳が楽器と楽器のあいだに粒子になって佇んでしまうような聴取に動けなくなる8分31秒間。

火曜の月光茶房@表参道で待ち合わせ。ポール・モチアン追悼でおれはCharlie Hadenの『Closeness』をかけてもらった。ヘイデンのベース、モチアンのパーカッションと戦闘とか演説のサウンドコラージュ。「For A Free Portugal」、ポルトガルの現代史は知らないが、革命兵士の鼻歌と演奏者の想いが涙腺を緩ませる。

3曲目「Out Of This World’s Distortions Grow Aspens and Other Beautiful Things」8分52秒、曲題「この世界の歪みからポプラの樹やほかの美しいものが生まれてくる」(福島恵一)、ほんと、そうであってほしいよなあ、こんところちょこちょこと関東平野揺れてんなあ、その、α線核種ってどうなのよ、ゴー・ウエスト!なんて言ってるバヤイではない、

うわー、妹からのメールで末期がんのおふくろが入院して痛み止めの麻薬漬けになったという、ちゃんとスカイツリーを見せてやりてえんだよ、あー、でもなあ、おいおふくろ、死んじまったらおれの肩のところにしばらく居ろ、そしたらあれだぜ、すげーコンサートとかCDとかおれのカンドーが伝わってたまんねえぜ、この世のものとは思えない、なんて、そりゃあそうだ、なんてよ。


Niseko-Rossy Pi-Pikoe |編集CDR寒山拾得交換会musicircus

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