Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review
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2008年12月17日(水) グスターボ・ドゥダメル指揮シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ(SBYO)

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グスターボ・ドゥダメル指揮シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ(SBYO)

「ブラボー!」

おれは感動しないつもりでいた。シラけるつもりでいた。若きラテンアメリカ人たちが何が悲しくてタキシード着て地球の裏側まで来て、開演いきなり国歌「君が代」を演奏しなければならないのか。人類の歴史は学習していないのか。欧州文明システムでそれは文化の被植民地化ではないのか。1にち2ドル以下で生活している30億の民との連帯はどうしたのだ。文字どおり地球規模でセンセーショナルな興奮を巻き起こしているベネズエラの若きオーケストラ、これがまた人数が多い、ステージが満員状態だあれは100名ちかくいる、と、貴公子ドゥダメル27さいの指揮を聴いて来た。日本とベネズエラの国歌が開演と同時に鳴り響き、超満員の聴衆は総起立状態。おれは冷静に「君が代」がなまっているのを聴き逃さない。得がたい味わいの「君が代」、ラテン風味だ。聴いてみたいだろ、彼らの待望の初来日はNHKによって収録されたのでお楽しみに。ラテンはフランスだ。フランスのジャズ即興シーンではラテン風味は身体化している。フランス音楽に潜むラテンであれば、1曲目のラヴェル「ダフニスとクロエ」が、ツボを心得たあんまに反応するみたいにびくんびくんと飛び跳ねるのはサマになりすぎる。このポリリズミックに反応できるオケと、アルゲリッチが共演したがるのは、昨年のナカリャコフらとのショスタコ盤の熱気からすると至極とーぜんだろう。だけどこのオケ、若さと勢いだけでイケイケどんどんですき間が見える、とまでは言わないが、個々の力量を人数と統率で見事にカバーしているというあんばい。ドゥダメルの指揮はマジックだ。足が地についていないのではと思うばかりのステップで踊る。こ、これは井上道義の南米ヤングヴァージョンと言えるのではないか?お、い、井上道義62さいが4列目に座っているではないか。一瞬、これは千代の富士が初めて貴花田と対戦して歴史のバトンが渡ったシーンを連想したが、まだまだ井上は断然の横綱だ。チャイコフスキーは・・・、彼らは演目は何でもいいのである。チャイコフスキーである必然のないチャイコフスキーのクライマックスの狂騒に満ちたラテンの爆発があれば、わたしたち観客はブラボー!と総立ちになるしかない。もう、やられた。ドゥダメルの指揮ぶりに感染してしまったおれは、山手線内回りの中でドゥダメルになってしまっている。このまっすぐに淀みのない圧倒的な熱気がホールをおおうコンサートに、おれは宗旨がえをしてもいいと考えた。音楽が世界を変える。ベネズエラではこのオケの教育システムで、少なくとも麻薬や犯罪を予防しているのもあるが、ラトルの「子どもたちには他人を批判するという習慣がないのです、励ましあい誰かがミスをすると笑い飛ばします、責めることをしないのです」という発言が示す単純な構えに、なにげに小学校時代のキャンプファイヤーの一瞬に連れ戻される。世界を変えるのはチョムスキーやハートの言説によることではなくして、この音楽のようにおのれの生活を伝播させることによるものではないのか、と、思わされた。そうだなー、楽しむことを至上とするコンサートはドゥダメルや井上のようなちからがないとダメなんだよー。勇気もらった。元気でた!


翌日の朝日新聞に公演の記事があった。ベネズエラ、チャベス大統領って、反米政権なのを知らなかったが。
米国がまたもベネズエラ反米政権に軍事挑発か/週刊金曜日(2008年5月の記事)
「アメリカがベネズエラの反米政権を潰しにかからないのは何故ですか?」





『エル・システマ 音楽で貧困を救う南米ベネズエラの社会政策』 (教育評論社)

山田 真一  (やまだ しんいち)
1963年東京生まれ。シカゴ大学大学院博士課程修了。大学教員を経て、文化創造研究所を設立。文化事業コンサルティングやマーケティング、シンポジウム、セミナー等を行う。全国誌、一般誌への寄稿コメント等多数。著書に『アーツ・マーケティング入門』(水曜社)、『オーケストラのマーケティング戦略』(日本オーケストラ連盟)。

目次
序章:音楽は貧困の子どもたちを救うか
第1部:ベネズエラの社会とオーケストラ
 第1章・・・遠い国ベネズエラ
 第2章・・・貧困の子どもたちとオーケストラ
 第3章・・・貧困、犯罪、騒乱の国
第2部:街の合奏教室から社会運動へ
 第4章・・・「演奏せよ、そして闘え」−国立ユース・オーケストラの挑戦
 第5章・・・音楽教室の指導法−スズキ・メソードの導入
 第6章・・・エル・システマ始動
第3部:貧困、社会問題との闘い:オーケストラと社会政策
 第7章・・・国民オーケストラの完成
 第8章・・・オーケストラを使った社会政策
 第9章・・・音楽による貧困からの脱却、社会への貢献
第4部:"芸術後進国"でクラッシック音楽が可能か
 第10章・・・400の青少年オーケストラ−エル・システマの現在
 補章・・・ベネズエラの経験
 終章・・・エル・システマを形成したもの


Niseko-Rossy Pi-Pikoe |編集CDR寒山拾得交換会musicircus

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