Land of Riches


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 2025年11月22日(土)   self-acceptance 

11月二度目の3連休が来ました。11月3日は保守風潮を反映して「明治の日」併記になるとか。
日本は祝日が多い国と言われていますが、土日祝は泊まるのも高いので逆に遠出意欲下がります。
それでも朝、雨戸を開けたら雲のない青空が広がっていたら、家にいるのが惜しくなりまして。
一念発起して、SNSで見かけた東北沢の「オオノ餅店」目指して電車に乗りました。

最近の若者には店へ行って買う習慣がなく、買い物はwebで発注して配達を待つと言われますが、
私も飲食店の新規開店はwebで仕入れるので、このジャンルだけは似たようなものです。
オオノ餅店は覚王山フルーツ大福・弁才天でSNSに断面美をUPさせて大ブレイクした大野さんが、
その弁才天をファンドに売却して始めた新形態。小さな店でその日ついた餅を売っているのです。

東大駒場キャンパスの向かいにある店の前で1時間並びました。待ちながら、電車でも読んでいた
先日「チャイと選書」でチョイスしてもらった内の1冊『午前三時のルースター』を読了しました。

「結局は、感じること、気持ちとして残る部分がすべてに優先するんだと思った。
どんな過去があろうがどんな仕事をしていようが、
それでも相手のことを嫌いになれないのなら、最後にはそれがすべてなんだと思う」

『信長の定理』などで知られる垣根涼介さんのデビュー作でサントリーミステリー大賞受賞作。
ミステリーと言っても誰かが殺されるわけではなく、テニプリ跡部のような家庭環境の少年が、
失踪した父を探しにベトナムへ渡航して大冒険した挙げ句、決別する物語でした。

宝石商の3代目として英才教育を受けた少年・慎一郎は境遇を受容しつつも、同様に後継者として
高待遇を受けながら出張先のベトナムで失踪した入り婿の父が唯一、自分を後継者としてではなく
「シン」として見てくれると心を開いていました。後継者を失った創業者(祖父)は打開策として
取引先である大手宝石加工業者のバツ1息子を娘(夫の失踪から3年経ち離婚)の再婚相手に選定。
失踪した父を諦めさせようとベトナムで行方を探したいという孫のリクエストを形だけ受け入れ、
息のかかったツアコン=主人公に断念の方向へ誘導させようとしたり、付き合いのある暴力団員に
捜索活動を妨害させたり(これへの対処が冒険譚として描かれる)悪知恵を存分に働かせます。

話術巧みな主人公は損得勘定で他者を判断し冷めたスタンスが基本なのですが、育った家庭は
恵まれていなかったようで、慎一郎に肩入れします。主人公がツテと交渉で結成したパーティーは
これまた複雑な過去で培った強い能力と人脈持ちばかりで、フル稼働の結果、祖父の想像を超え、
慎一郎はベトナムで新たなビジネスを自らの力で開拓した父と再会できてしまったのでした。

約束されたレールから逸脱して新たな生き方に飛び込んだ父に嫉妬の眼差しさえ向けた少年は、
形見として渡された400万円以上で売れる腕時計を、受け取ってからずっと身につけていたのに、
成田空港から戻る車中から川に投げ込みます。巻末の解説でもこのシーンが抜き出されており、
私以外の読者にも鮮烈な印象を残すんだと腑に落ちました。出発前の成田空港でも少年は近い将来
兄妹関係になる先方の連れ子の少女と口論するのですが、少年が旅立つ事情は分からずとも、
自らの家族が置かれた立場を慮り少年に豪速球で訴える彼女と、その言葉を言い返さず受け止める
少年の器が描かれていて、再婚する二人は婚前にラブホへ行くなど碌でもない大人ですが、
少年と少女は大人たちの思惑を超えて豊かな未来を築けるのではないかと思ったりしたのでした。

選書時にはベトナムの空気が伝わる描写が…と勧められたのですが、確かにベトナムの調査も作者は
綿密に行ったと分かりましたけど、それ以上に車や武器の細かい描写が印象に残りました。
男性たる作者が好きなジャンルなんだろうなと。それを活かす混沌としてのベトナムでした。

オオノ餅店はもともと鬼まんじゅうから始めたようですが、岐阜生まれの私には見慣れた品。
(覚王山の名前でも分かるように大野さんは名古屋出身らしい)
たれ餅などメニューは結構ありましたが、SNSでバズっていたピーナッツ大福と塩豆大福を購入。
代々木上原は“一軒家が建てられる渋谷区”といった趣で、住宅街にいきなり行列ができる飲食店が
出現するエリアでした。どこか寄ろうかと思っていたのですが、結果としては大福2個でおなかが
満たされてしまって、ランチはしないで帰りました。塩豆大福、食べている最中は甘さ控えめで
餅の柔らかさぐらいしか印象に残らなかったのですが、めちゃくちゃおなかに残るんです。
餅を食べるとトイレが遠くなる、というのも本物だと間違いないなと実感させられたと言うか。

ブレイクしているピーナッツ大福は柔らかい餅とコーティングされたピーナッツのサクサク感の
コントラストがとても面白くて、噛んでいるだけで楽しくなっちゃう一品でした。人気も納得。
これも甘さが控えめで砂糖の甘さで全てを塗りつぶしたりされないので、味もよく分かりまして。
同じ280円なら塩豆大福よりピーナッツ大福ですが、2個買ったからこそ良さが理解できました。

代々木上原といえば審神者一家が経営する洋食屋「ふうらい坊」も再訪したかったのですが、
土曜定休なのを知らず…おバカ。ちなみに一家はこの日、TDCで思い切り推し活してました(笑)

帰りは松戸で途中下車して、今年4回目のクラフトビールフェス。さすがに11月だと夜は厳しい!
ついに出てきた松戸発のクラフトビール専用セイボリースナック「松戸ビアフリッチュ」が
めちゃくちゃ美味しかったです。名産のネギフレークとフライドガーリック、オニオン、唐辛子を
ミックスしたスパイスなんですけど、妙に甘く感じられました。ビールは銚子ビールが持ってきた
成田空港エール・セゾンをチョイス。成田空港近辺でしか原則飲めない品で、帰国をイメージした
アンバーエールと今回の出発イメージセゾンの2種類があります。爽やかで良かったです。
1杯だけなのにいい感じに酔って、帰ってから1時間半寝ちゃったのは予想外でした…。

2025.11.23 wrote


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