橋本裕の日記
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2008年03月12日(水) 知の巨人、アルキメデス

アルキメデスの死後、150年ほどして、ローマの文人政治家キケロがシラクサを訪れたとき、イバラや雑木の茂みに覆われたアルキメデスの墓を見つけた。そのアルキメデスの墓には、円柱とそれに内接する球と円錐が描かれていたという。

球は円柱の2/3、円錐は円柱の1/3の体積をもっている。これを最初に発見したのはアルキメデスである。発見しただけではなく、これを数学的に証明したらしい。

大学入試でこれを証明せよといわれたら、おそらく、多くの受験生は立ち往生するだろう。一握りの優秀な学生は、積分法を用いてこれを証明するに違いない。しかし、積分法の公式を使わずに、これをわかりやすく説明するのは、数学教師といえども容易ではない。

ベルは「数学をつくった人びと」のなかで、「最も偉大な数学者を3人だけあげよといわれるならば、そのリストにはかならずアルキメデスの名がはいることだろう」と書いている。そればかりではない。史上最高の数学者はアルキメデスに違いないという。

<普通アルキメデスとならべられる他の二人は、ニュートンとガウスである。これら巨人の生きたそれぞれの時代における数学や物理学の比較的な豊かさ、あるいは貧しさをはかり、その時代の背景に照らして、彼らの業績を評価する人は、アルキメデスを第一位におくだろう。

ギリシアの数学者や科学者が、ユークリッドやプラトンやアリストテレスではなくて、アルキメデスのあとを追っていたならば、2000年もまえに、17世紀にデカルトやニュートンとともにはじまった近代数学の時代、同じ世紀にガリレオの手で始められた近代物理の時代を座して待つことができたであろう>

 アルキメデスに先立ち、ギリシャ数学はピタゴラスという偉大な先達をもっている。ピタゴラスの大きさは、ある意味で、アルキメデスをもしのいでいる。その理由を、ベルはこう書いている。

<ピタゴラス以前には、証明が仮説から生ずるということがはっきりと理解されていなかった。根強い伝説によると、彼はヨーロッパ人として初めて、幾何学を展開するにあたって最初に設定されるべきは公理、すなわち仮説であり、その後の全展開は綿密な演繹法を公理に適用することによって進められるべきである、と説いた>

 ベルによれば、ピタゴラスの最大の功績は、「数学に証明を導入した」ことだという。たしかにピタゴラスは数学の命題が「仮説から証明されるべきである」ことを、だれよりもよく理解していた。そしてこの論理的合理主義の伝統はアルキメデスにも受け継がれている。

しかし、アルキメデスの偉大なところは、彼がこのギリシャ的な論理主義の伝統に安住しなかったことだ。プラトン的なイデアの世界に安住し、定規とコンパスで作図可能な円と直線の世界の調和を、アルキメデスは見事に打ち破っている。彼はある意味で非ギリシャ的な精神をあわせもつ未来の数学者だった。

<プラトンの死後、1985年もたって、デカルトがその解析幾何学を発表するまで、幾何学はそのプラトンふうな一種の囚人服を脱ぐことができなかった。もちろん、プラトンはアルキメデスが生まれる60幾年も前に死んでいるのだから、しなやかな力と自由さにあふれるアルキメデスの方法を理解しなかったと非難するわけにはいかない。

反対にアルキメデスが、幾何学の女神の本質について、きついコルセットをはめたようなプラトン的な概念のオールド・ミス性を尊重しなかったのは、彼の名誉に値するだけである>

アルキメデスは、近代的な経験科学の方法に接近している。真理を論理のなかにのみではなく、もっとゆたかな現実のなかに求めようとしている。プラトン的均整美だけではなく、現実の動的な部分にも目を向け、これを記述するための数学を開発した。

じつのところ、アルキメデスはニュートンやライプニッツより2000年以上も先んじて「積分法」を発明し、円や三角錐の体積を計算した。さらにアルキメデスは曲線上の接線を求める方法を探求している。これはまさしく私たちが高校の数学で習う「微分法」の考え方である。

ニュートンはフックに宛てた手紙の中で、「もし私が、より遠くを眺めることができたとしたら、それは巨人の肩に乗ったからです」(If I have been able to see further, it was only because I stood on the shoulders of giants)と書いた。

ここでニュートンが巨人と呼んだのはデカルト、ケプラー、ガリレオの三人だといわれている。しかし、彼らをその肩の上にのせ、ひときわ高くそびえ立っている巨人がいる。それがアルキメデスだった。

(円柱に内接する球と円錐の体積の比が3:2:1であることを理解したい人には、次のサイトが参考になります)

http://www.rd.mmtr.or.jp/~bunryu/kyuu1.shtml


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