橋本裕の日記
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2007年07月08日(日) クラス崩壊と腰痛(2)

 20年ちかく教員をしていたが、このときほど辛い思いをしたことはなかった。三河の管理主義の新設高校で教えた2年間もつらかった。しかし、この頃はまだ30代の前半で、気力や体力が充実していた。今回は40代の後半で、気力や体力が落ちている。このことが腰痛の発症に結びついた。

 さらにこれに追い討ちをかけるように、高血圧、不眠、眩暈や耳鳴り、歯槽膿漏による悪臭と出血、動悸が止まらないという心拍異常など、これまで経験したことがないことが次々と襲い掛かってきた。医者に通い、薬を処方してもらうのだが、一向に改善されないどころか、さらにひどくなって行った。

 専門家の本を読むと、腰痛は「筋力の減退」が原因だと書いてある。そして心理的な疲労やストレスが原因になる場合もあるという。私の場合は腰の筋力の減退に加えて、新しい職場でのストレスによる心理的な要因が大きかったようだ。だから、職場の状況が悪化するにつれて、症状はますます悪化した。

 歯茎がはれて痛いので歯医者に通ったが、治療の途中、何度も水で口を濯がなけばならない。ところが腰が痛くて、診察台から上半身を起こすのが大変だった。そのまま仰向けに起き上がれないので、体を横に向けて、腕の力で斜めに体を持ち上げる。これが大変だった。腰が痛い上に、歯茎まで膿んで痛くなり、さらに眩暈や耳鳴りまでするのだからたまらない。

  こうした中で、登校拒否をしているI君の家に、何度か家庭訪問をした。家に行くと、壁に穴があいていたりして、かなり荒れているようすが窺えた。I君は「学校には行きたくない。一刻も早く退学して、働きたい」と言うばかりだ。ところが、父親が「高校くらい卒業しなくては駄目だ」とこれを許さない。

 父親はI君が学校に行けないのは、学校でいじめを受けているのではないのかと疑っていた。学校にも来て、この問題で直接校長と話したりした。当のI君は「ただ行きたくないだけだ」としか言わないが、この点で、私も父親や校長の前で「いじめはありません」とは言い切れない。何しろ私自身が生徒達から「橋本、死ね」などと教室に落書きされ、それを消す毎日だった。登校拒否したいのは同じで、「できることなら教師を辞めたい」と考えていた。

 家庭訪問をすると、母親や父親としばらく応接間で話した後、二階のI君の部屋に入り、二人で畳に寝転んで、いろいろとりとめのない話をした。部屋に閉じこもっているI君に、腰痛と睡眠障害で人生に悲観的になっている私が、「そのうち、いいことがあるさ」などと語りかけるわけだから、あまり迫力がない。I君の登校拒否もおさまるわけではなかった。

 そこで、学校でカウンセラーをしている先生に家庭訪問をしてもらった。ところがカウンセラーの先生は、家庭訪問から帰るなり、「あの子はおかしい。精神病の疑いがあるから、専門医に見てもらうべきだ。両親に伝えてください」という。驚いて話を聞くと、I君は心を開かないままほとんど何も話さず、終始様子が尋常でなかったのだという。

 しかし、私の目にはI君は精神を病んでいるようには見えなかった。学校を続けろという父親に反発して家の中で荒れてはいるが、それは「学校へ行ってもつまらない、むしろ世間に出て働きたい」という気持から出たものだ。今の学校に魅力が見出せず、こういう反応をする彼の心や感受性は、むしろ健康で正常なのではないか。

 私はこう考えて、カウンセラーの先生を言葉を、両親には伝えなかった。そして息子の将来を考えるあまり、かえって視野が狭くなっている父親を、I君の意にそう方向で、何とか説得しようと決意した。(続く)

(今日の一首)

 われもまた悩みをかかえ天井を
 眺めていたり生徒とふたり


橋本裕 |MAILHomePage

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