橋本裕の日記
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| 2007年07月02日(月) |
年金の高リスク運用に疑問 |
昨日の朝日新聞の記事によると、社会保険庁のコンピュータにある1億3900万件の国民年金納付記録のうち、市町村や社会保険庁に保存されている原簿は1億件ほどにとどまり、4分の1にあたる3千数百万件については、原簿が存在しない可能性があるという。
原簿が存在しないと、コンピュータの記録が正しいかどうか検証ができない。そればかりか、コンピュータに入力漏れの記録はその存在さえもわからないわけで、こうした「消えた年金」が大量に生じるおそれがある。こうした問題をどう解決したらよいのか、政府は「第三者委員会」の設置を口にするだけで、明確な方針を出せないでいる。いずれにせよ、この難問に取り組むために、政府はさらなる財政出動をしなければならないだろう。
こうした中で、政府は年金の積立金の運用を弾力化しようとしている。厚生労働省が所管する独立行政法人が管理・運用している公的年金の積立金は約150兆円ある。前にも紹介したが、日本の公的年金の積立金は、給付額の5.55年分もあるが、米国が1.55年分、英国が1.2ヶ月分、ドイツは1ヶ月分しかない。
そもそも日本以外の国では年金は積立てるものではない。そのつど必要な金額を政府と現役世代が拠出するものだ。したがって巨大な年金積立金は存在しない。だからこれを基盤に政官業の巨大な利権が生まれることもないわけだ。年金改革をいうのであれば、まずこの積立金をなくすことを考えるべきだろう。
ところが政府の計画案はそうではない。6月19日の朝日新聞は田村耕太郎内閣府大臣政務官(金融・経済担当)が取材で明らかにした年金を独自のファンドで運用する構想について、次のように紹介している。
<政府100パーセント出資の株式会社を設立する形で運用ファンドを設立。独立行政法人の資金のうち20兆〜40兆円程度の運用を委ねる。「安全」に重点が置かれている運用方針を見直し、株や不動産、デリバティブなどへの分散投資を進める。トップも含めて外資系金融機関などで働く優秀な人材を手厚い報酬で雇うことで、運用利回りを上げる構想だ>
これはこの積立金を温存し、これを土地やハイリスク・ハイリターンのファンドやデリバティブで運用して、利ざやをかせごうという市場経済の流れに乗った発想である。しかしこの巨大な公的資金を市場で運用すれば、どういうことがおこるか、十分考えた上でのことだろうか。
これは国が国際的なカジノ経済に加担することであり、しかも委託された運用者にリスク感覚はなく、結局巨大な損失が出た場合のつけは国民にまわされることになる。しかも運用に当たって現在よりさらに大きな利権がうまれることになりかない。国際金融市場がゆがめられ、新たな国際問題も発生するだろう。
私の見るところ、年金問題の根本的解決は「積立金」の解消を置いてほかにはない。積立金をすべてこれまで納付していた人に返し、公的老齢年金を65歳以上の国民に一律に定額を支給することにして、その資金は税金で負担することにする。これで年金を徴収したり管理する組織や特殊法人もいらなくなる。公務員改革法で天下りを規制するよりも、天下り先をなくすほうがすっきりしている。
(今日の一首)
夜更け道ひとりで歩く靴音が ひびいていたり満月の夜
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