橋本裕の日記
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2007年06月22日(金) 戦争を望むフリーター

「フリーターの希望は戦争か?」というトークライブが渋谷であった。トークライブをした雨宮処凛(かりん)さん、赤木智弘さん、杉田俊介さんの3人はいずれも1975年生まれのフリーターだという。その様子が、6月18日の朝日新聞の「ポリティカにっぽん」(早野透)に紹介されている。そこに引用された若者たちの本音を興味深く読んだ。

「平和な社会なんてろくなものじゃない。夜遅くバイトに行ってろくな休憩もとらずに明け方帰ってきて、テレビとネット、昼ごろ寝て、またバイトに行くくり返し」

「戦争は社会の秩序を破壊して流動化させる」

「平和な社会で差別と屈辱に苦しむよりも、みんなが平等に苦しむほうがいい」

 企業は未曾有の好景気で、大手会社のボーナスも史上最高額だそうだ。そして今年のボーナス商戦は「高価格、高品質」が売りだという。こうした富裕層がふえた反面、低所得層も拡大し、平均所得は減少している。

 非正規社員はいまや全体の3分の1をしめ、低賃金にあえいでる。こうした若者や失業者が「平和な社会なんてろくなものじゃない」と考え、現状秩序の破壊をもとめて「戦争賛美」に走るのも無理もない。事実、いつの時代にもこうして社会は右傾化し、戦争へと突入していった。

 英米開戦のときの総理大臣だった近衛文麿は、26歳の頃に「英米本位の平和主義を排す」という論文を雑誌『日本及日本人』に執筆している。

<第1次大戦は既に成立した強国とこれから強国となる国の争いだった。現状維持が有利な国と現状破壊を目指す国の争いだった。現状維持の方が利益と思う国は平和を叫び、現状破壊に利益がある国は戦争を唱えた。平和主義なるがゆえに正義でも人道的でもない。軍国主義なるがゆえに必ずしも正義とか人道に反しているわけではない。

 英米の平和主義は現状維持が利益になると主張する事なかれ主義で、正義とか人道に関係はない。日本の知識人は英米の宣言にみられる美辞麗句に酔って平和イコール人道と考えがちである。しかし日本は国際的地位からすればドイツと同じく現状打破を唱えるべきだろう。

 英米本位の平和主義に影響され国際連盟を天から来た福音のように尊重する態度は卑屈そのもので正義人道の視点からみればむしろ嫌悪しなければならない。国際連盟で最も利益を得るのは英米だけであって残りの諸国は正義人道の美名に誘われたとしても得るものは何もない>

(http://ww1.m78.com/topix/konoe%20thesis.htmlから現代語訳を引用)

 近衛はインテリなので難しい表現をしているが、やさしくいえばつまりは「平和な社会なんてろくなものじゃない」ということなのだろう。平和を望むのは恵まれた人々であり、恵まれない人々はそのいつわりに満ちた平和を根底から破壊してくれる「戦争」を心の底で待望する。

 そういえばトルストイも「戦争と平和」のなかで「不幸な者が戦場を目指す」と書いていた。作家の松本清張さんもそうした不幸な若者の一人だった。彼の『半生の記』(新潮文庫)から引用しよう。

<そのときの召集は久留米だったが、令状通り三カ月の教育期間で一応解除になった。 ところが、この兵隊生活は私に思わぬことを発見させた。「ここにくれば、社会的な地位も、貧富も、年齢の差も全く帳消しである。みんなが同じレベルだ」と言う通り、新兵の平等が奇妙な生甲斐を私に持たせた。

 朝日新聞社では、どうもがいても、その差別的な待遇からは脱けきれなかった。歯車のネジという譬があるが、私の場合はそのネジにすら価しなかったのである。ところが、兵隊生活だと、仕事に精を出したり、勉強したり、又は班長や古い兵隊の機嫌をとつたりすることでともかく個人的顕示が可能なのである。

 新聞社では絶対に私の存在は認められないが、ここではとにかく個の働きが成果に出るのである。私が兵隊生活に奇妙な新鮮さを覚えたのは、職場には無い「人間存在」を見出したからだった。兵営生活は人間抹殺であり、無の価値化だという人が多い。だが、私のような場合、逆な実感を持ったのだ。

 三カ月の期間といい、その後三カ月してすぐに召集が来て復員するまでの二年間といい、私は自分がそれほど怠けた兵隊ではなかったと考えている。これはなにも軍人精神に徹していたからではなく、それまでの「職場生活」への反動だったと言える>

 軍隊におなじような希望を見出した若者たちが当時の日本に少なからずいたのではないだろうか。軍隊では三度の食事が食べられ、世間の上下関係が解消して実力本位に生きられる。そして現代でも世界にはそうした理由で軍隊や武力組織に身を投じ、戦場に赴いた若者たちがいる。私たちは日本をこのような社会にしてはいけない。

(今日の一首)

 戦争にあこがれる人あまたあり
 社会がうみだす不平と不満


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