J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2004年01月12日(月)    そして。私とレイは始まる事無く終わった。

J (3.秘密の恋愛)

4. 無常 (6)


「いい想い出、か。なるほど、そうだね。」

私は思い出したようにこんな言葉を漏らす。
独り言のように。

レイもまた。
「そう、いい想い出、ですね。」
と独り言のように。

もはや私はレイが何を思っていい想い出といっているのかなんて、
どうでもよくなっていました。
私は私なりに自分本位でレイを思っていい想い出としていたのです。

少なくともレイは私に好意的であった。
私があの夜、ふたりで最初で最後に飲んだあの夜、
私がレイを抱き締めたこと、そしてキスしようとしたこと、は、
レイにとってはいい想い出となって残っている。

よかったじゃないか。
それで。

私はレイに好意を持っていたんだ。
レイに恋愛の情をもっていたんだ。
決して酔った勢いの蛮行じゃなかった。

君が好きだから。
君を欲しくなってしまったから。
純粋に、それだけの感情で君を抱き締めたんだ。

その気持ちがレイに伝わっていたんだ。
だからレイもいい想い出と言ってくれている。

よかったじゃないか。
それで。

そして。
私とレイは始まる事無く終わった。
それでよかったんだ。

想い出だけが、いい想い出として、残った。
それだけでもよかったじゃないか。


・・

「僕の気持ち、確かめられた、さっきそう言ったね、レイちゃん、
 それは本当に確かだと思っていいよ。」

私はいつしか考えていることを言葉として話しはじめました。
酔って自制心が薄れていたのです。
思考と言葉が区別できなくなって、ボロボロと心のうちを話し始めたのです。

レイは黙って頷きました。
嬉しそうな、辛そうな、どちらとも取れる表情で私を見つめて。

私は言葉を続ける。
「だけど。それ以上は聞くな、話すな、考えるな、だよ、、、。
 もう済んだことなんだ。始まる事無く終わったことなんだ。
 どうしようもないことなんだよ、、、。」


レイは。
レイは泣き始めました。
そして、、、

「けど、工藤さんは、私の気持ち、わかってない、、、。」

と、言いました。


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