J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2003年08月05日(火)    もう生まれたのだろうか!

J (2.結婚)

14. 生と死 (9)


・・

病院に着いたのは翌朝5時過ぎでした。

雪はやみ静けさが漂う駐車場に車を止めて、私は車を降り入り口を探しました。


、、正面玄関は閉まっていました。

私は裏口を探し、うろうろと病院の周りを回りました。

、、どこにも入れそうなところはありませんでした。


仕方なく私は急患の呼び出し用のインターホンを押してみました。

「はい?」
「あっと。朝早くすみません。こちらで出産する工藤友美の夫なんですが。
 中には入れなくって。どこから入ればいいんでしょうか?」
「ああ、昨夜入院された方ね。ちょっとお待ちください。」

しばらくして入り口のカーテンがあき、中から看護婦さんが顔を出してくれました。
そして私の顔を確認してから鍵をあけてくださいました。

「面接時間は8時からなんですが、、、。」
「え、ええ、しかし、生まれると連絡をうけて、
 それでこの時間まで車を飛ばしてきたんです。」
「まぁ。この雪の中を。それはそれは。」
「ですから、なんとか、見舞いをさせてもらえませんか。」

看護婦さんは少し考えてから、「では、どうぞ。」と私を招き入れてくださいました。


(もう生まれたのだろうか!)

私はそれが知りたかった。

廊下を黙って歩きながら胸が高鳴る。

「あの。」
私は肝心なことを聞こう、そう思って声を出しました。

看護婦さんは私の顔を見てにっこりされました。
「可愛い女の子、ですよ。ホント、今日のこの雪のように色の白い。」
「、、、ああ。そうですか、、、。女の子、ですか。」

「奥さんも無事で。安産でした。」
「、、、ああ。そうですか、、、。安産、でしたか。」

「こられてすぐに、時間もそうかからなかったのですよ。」
「、、、ああ。そうでしたか、、、。よかった、、、。」

「なので付き添いの人も暫くで帰られて。
 今は奥さんとお子さんが一緒の部屋で休まれているわ。」
「、、、ああ。そうですか、、、。よかった、、、。」

私は言葉が浮かんでこなかった。
ただ看護婦さんが言うことに対して反復するがやっとだった。

よかったと、そう思う、そう安堵する、それしかできない。

そんな私でした。


・・

病室に入り友美さんと子どもの寝顔を見る私。


私は眠っているふたりにそっとキスをしました。


友美さんには、「ありがとう。」と言う言葉を添えて。

生まれ来た子どもには、「ようこそ。」という言葉を添えて。



私はこの子に「雪子」という名を付けました、、、。



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