J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2002年11月28日(木)    でも、好きな人は別にいるんです、私、

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (11)


私が声をかけたからきたのか、
レイが自分から進んでかきたのか、
記憶に定かではありませんが、
何時の間にかレイは私の隣に座っていました。

18歳の新入社員、レイ、と、
彼女の上司にあたる30歳の私、
特別にこの場の光景としては不自然ではありません。

「工藤さん、随分飲んでるみたいですね、」
「ああ、レイちゃん、君も飲んでるの?」
「少しだけ、です、」

レイは未成年ですから、
多くは飲んでいなかったでしょう。
でも、ちょっぴり酔っているようにも見える。
そんな感じでした。

「友美さんって優しい人ですね、かわいいし、、、
 工藤さん、友美さんといつ結婚するんですか?」
「この秋だよ、10月、えっと何日だったかなぁ、
 う〜、酔ってて思い出せないや、10月のいつかだよ、」
「いつプロポーズされたんですか?」
「ん〜と、去年の友美さんの誕生日、」
「去年、ですか、友美さんの21歳の誕生日、ですね、」
「そう、」
「なんて言ったんですか?」
「え〜っと、、、おいおい、なんだか矢継ぎ早に、
 どうしたの、レイちゃん、それよりさ、、、」

(それよりさ、歌、歌わないのかい?)
私はそう聞こうとしたのですが、
レイは私の言葉の前にぽつりと言いました。

「いいなぁ、友美さん、幸せそうで、」

私は、話を続けました。

「レイちゃん、歌わないの?みんな歌っているよ、
 好きな歌って、せっかくきたんだから。」

レイはちょっと口を尖らせて、言いました。

「歌はいいんです、さっき歌いました、
 聞いててくれなかったんですか〜?」

私は、しまった、と思いましたが、
まぁ酔っているから分からなかったということにして、
「じゃ、歌はいいよね、」とだけ言いました。

少々バツが悪かった私は、
「しかし、まぁ、レイちゃんはかわいいし、よくできる、
 君みたいなコが入ってきてくれて僕もうれしくってね、」
とよいしょして話題をかえました。
「高校時代ももてただろうね、
 やっぱ、彼氏とかいるのかな〜?」

レイは首を振り言いました。

「お友達は何人か。でも、」

「でも?、」

一瞬の沈黙の後、レイが言いました。

「、、、あ、工藤さん、友美さん、ほら、友美さんが歌ってる、」

「え?、」

レイは指差した先には、
友美さんがマイクを持って歌っている姿がありました。

私は遠い目で友美さんを見ました。
その時は、遠くに、本当に遠くに友美さんを感じました。

私はレイの「でも、」の先が知りたかった、
どうしてもその先の話が聞きたかった。
友美の歌なんかどうでもいい、というようにして聞きました。

「でも、なんなの?、レイちゃん、」

レイは決して誰にも言わないで、
と私に念を押してから言いました。


「でも、好きな人は別にいるんです、私、」




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