ハロウィーン通信

[ 『暗い鏡の中に』 ]  2011年10月20日(木)




格式ある女学校で生徒達の間にひそやかに流れる噂。
奇怪な現象は、感受性の強い女生徒ばかりではなく、
やがて良識有る教師達までもが経験する事となる。

たまたまですが、私も大学生の時、同じ現象の当事者となりました。
当時の私は、我が身に超常現象が起きている‥‥と思うはずはなく、
ごく現実的な解釈をしました。

小説の中での探偵役、ばりばりの合理主義のアメリカ人
精神科医ベイジル・ウィリング博士と同じ考えです。

しかし、ウィーン育ちでエキゾチックな美貌の持ち主の
ウィリング博士の恋人ギゼラは、
心霊現象などにも違和感を感じないと語ります。
古い文明の中に居れば、そういう事も実際にあるのだと。

『暗い鏡の中に』は戦後間もない1950年の米国の小説、
女性作家ヘレン・マクロイはクイーンやカーと同時代の人です。
新訳復刊された『暗い鏡の中に』を読み始めてすぐ、
「あっ!これはあの有名なトリックだ!
あのトリックの原作がこの話だったのか」
と、少し感激しました。

それが本当に人の手による犯罪だったならば、ですが。

怪奇で幻想的な謎が提示され、それが実は超自然的な出来事ではなく、
合理的に解決されるという本格ミステリの古典である一方、
トリックの解明によって現実に着地する、という結末を
あえて選ばなかったために、怪奇幻想小説でもありうる、という作品で
す。

全編を覆う、うすぼんやりと霞んだような雰囲気がいかにも女性らしく、
近著『開かせていただき光栄です』が評判の
本邦幻想ミステリの大御所・皆川博子先生は、
名高いカーの『火刑法廷』より、本作『暗い鏡の中に』の方を
海外幻想ミステリのベスト1に選んでいるほどだそうです。



大学生だった私の周りで起きていた奇妙な現象も、
私が考えたような合理的な出来事だった、という
決定的な証明はできません。
もしかしたらあれも本当は‥‥。
                         (ナルシア)



『暗い鏡の中に』
著者:ヘレン・マクロイ 訳:駒月雅子 / 出版社:創元推理文庫2011

『開かせていただき光栄です』
著者:皆川博子 / 出版社:早川書房2011

『火刑法廷』
著者:ジョン・ディクスン・カー/ 訳:小倉多加志 /
出版社:ハヤカワミステリ文庫1976


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