| 2014年02月14日(金) |
雪のバレンタイン(SS完成) |
2月14日昼過ぎ
降雪のため半日になった授業を終え、当番全員あまり身の入らない掃除を済ませもう帰ろうと下駄箱へ向かったところでおまえの後姿を見つけた・・・ 女友達と楽しげに笑いあう姿を見たら、俺の希望的勘違いが少し恥ずかしく感じた ほんの少しの期待は伝わらなくて良かったのだろう、そう自分に言い聞かせまだ新しいスノウブーツに履き替えた
「雪、フッワフワだね〜!」
前方から聞こえてくる声は降りしきる雪に驚きながらも歓喜の感情を含むような、そんな嬉しげなトーンばかり はばたき市ではめったに降らない雪・・・ 今日の雪はもしかして結構積もるのかもしれない 積もったら雪合戦、そんな年でもないのだけれど、やっぱりなんとなくウキウキしてしまう 学校から大通りへの下り坂、うっすらと積もった雪で足元が少し危ない そんな雪道を、皆がはしゃぎながら下りてゆく・・・
午後3時
家に帰った俺は数学の問題を解いていた 何もすることがない時は数学をするのが一番楽しい 無心になって解き続けることで頭の中がすっきりしてくる これが変な趣味らしいと気づいたのはつい最近なのだけれど、それを変えることはいまさら出来ない
そんな時・・・携帯の着信音が鳴った 俺にとって不要な電話ならとりもしないのだけれど、メールの音・・・
「葉月くん、これから駅で会えますか?」
おまえからのメール・・・ これから駅で、その文字を見て窓の外を確認する 雪はすでに10センチくらいは積もっていそうな様子だった
「構わない、ただ、雪、すごいぞ」
そう返信すると20秒後に
「新はばたき駅に17時に行きます!」
大丈夫か? と正直思ったのだけれど、おまえが来るって言うのにそれを抑止できるような大人の俺は、その時・・・いなかった
午後5時過ぎ、新はばたき駅改札前
雪で少し遅れたバスを降り改札へ急ぐと、おまえはすでに目印の柱の横で待っていた
「ごめん、遅くなった」
見慣れたマフラーをぐるぐるに巻いたおまえは、少し頬を上気させ顔をぶんぶんと横に振る
「いいの、私も今ついた所、わざわざ来てもらってごめんね」 「いや、別に・・・」
何か気の利いたことでも言えたらいいのだけれど、この日、こうして会っている事に俺は少し混乱していて、何も言えずにいた
「あの、葉月くん」 「ん?」
「あのね」 「ん・・・」
「公園、行かない?」 「えっ?」
この雪の中、公園? おまえは俺の顔に疑問符がついたことに気づいたのかおもむろに手に持っていた袋の中から水筒を取り出して
「コーヒー持ってきたの」 「コーヒー・・・?」
「マスターに淹れかたを教わって、ようやく美味しく淹れられる様になった気がするから、あと・・・」 「・・・コーヒー、俺に飲ませるために?」
おまえは、無言でコクコクと頷く 駅前は・・・積雪がどんどん増えてきていて、この雪の中で公園でコーヒーはちょっと・・・そう思案していると
「でも、無理だよね、ごめんね、本当にごめん」 「えっ?ごめんって、なんで?」
「だって、葉月くん受け取らないってわかってたし、やっぱり悪かったかなって」 「いや、全然・・・悪いとかじゃない、ただこの雪の中、公園はちょっとな・・・」
「あ、雪・・・」
ここでおまえは我に返ったように駅前広場のほうを見ると、目を丸くして
「ホントだ、雪、すっごい!」
すごいって、今まで気づいてなかったのか?そう言い掛けて、俺は言葉を飲み込んだ ひとつのことに夢中になると、他の事は見えなくなる・・・ おまえはそういうとこ、昔からあるんだよな
「葉月くん、雪、こんなに降ってたんだ!」
いや、メールですごいって言っただろ、って言うか、改札でてからおまえは何を見ていたんだろう、そう思うと俺はつい笑ってしまった
「あ、笑った」 「ん、笑えた」 「え?何で笑えたの?」
その疑問に答えてもきっと伝えるのは大変そうだなと思いつつ・・・俺はまた笑っていた おまえは、口を少し尖らせて、ちょっと不服そうな顔をしたけれど、結局俺たちは二人一緒に笑っていた
「なあ、コーヒー、公園じゃなくてもいいか?」 「うん、どこでもいいよ」 「じゃ、俺の家・・・」
俺としては、勇気のいる言葉を・・・努めてサラッと言えたことに自分でも少し驚く
「葉月くんの家?」 「ん・・・」
おまえは・・・少し下を向いて・・・一度瞬きをした、そして
「・・・じゃ葉月くんの家で、コーヒーと、チョコと・・・雪合戦!」
俺は・・・また「ぷっ」と鼻で笑ってしまったのだけれど、その返事が・・・どんなに嬉しいことだったのか、おまえは知らない
降りしきる雪の中 駅前から丘の上へバスが走る
雪のバレンタイン・・・ 俺に届いたプレゼントは、温かなコーヒーと「ちょこっと」雪合戦か
サンキュ・・・ 心でそう呟いて、隣にいるおまえの横顔を・・・ずっと、眺めていた
End
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