=以下「読者の言」原稿= 3月の半ばに16年前に卒業した教え子からMessengerでメッセージが送られてきた。そこにはこう書いてあった。「今、財津和夫さんの取材をしていて、それが本になります。タイトルは『財津和夫 人生はひとつ でも一度じゃない』です。その本を送ります。」(川上君、宣伝しておいたよ!!)
教え子が書いた本を読むのは、彼の本で3冊目となる。1冊目はラノベだった。2冊目はメディア論についての少しアカデミックなもの。そして3冊目がそれである。教科書や様々な本で学んだ教え子達が本を書く側に変わってきているのは感慨深いものである。私も何度か書籍の一部を執筆させてもらったことがある。一部とはいえ活字となって残るものを自分が作るというのはなかなか緊張するものだ。教え子達もきっと多くの人の助言をもらい、内容を吟味し、表現の一つ一つを推敲したはずである。そして上梓された本を手にした時にはなんとも言えない達成感を感じたことだろう。
本の執筆というのは私のような一般の人間にとっては自分を認めてもらった証のようなもので、経済的に潤うようなものではない。執筆の契約と聞くと印税のことを思い浮かべる人もいるかとは思うが、学術書に多い共著の場合は執筆料だけで印税が入らないことも多い。それどころか著名な大学教授であっても研究成果を出版したければある程度の部数が売れることが予測できなければ執筆させてもらえない。私が知っている非常に高名な英語教育の先生はどうしても研究成果を出版したいから、100万円単位のお金を出して自分の著書を買うことを条件に出版させてもらったと言っていた。
ところが出版の世界にITが入ってきてからはその様相も変わってきている。
Amazonが始めたサービスでKindleダイレクトパブリッシングというのがあるのをご存じだろうか?この新しい出版方法は出版業界を震え上がらせるような、これまでの出版の常識を覆すものだと私は感じている。簡単に説明すると、Amazonが用意したフォーマットに自分が書く本の詳細を入力し、原稿をアップロードし、権利と価格を決定するのという簡単なフローで出版できるのだ。
このサービスのすごいところは4つある。一つは日本国内だけでなく、北米、南米、ヨーロッパ、オーストラリアと世界中での販売が可能なこと(世界中で売れる本にするには英語での執筆が必要ですよ!英語を勉強しよう!)、二つ目はAmazonが自動的に電子書籍や紙の書籍にしてくれること、三つ目は印税率が信じられないほど高いということ、そして何よりすごいのがこのサービスは誰でも利用できるというところである。これらは今までの出版の常識ではとても考えられないものなのだが、IT技術によって今まで非常に大変だった出版社との打ち合わせや自費出版の場合に必要な事前のお金の準備などのハードルがとても低くなっている。
もちろんITがハードルを下げているのは執筆側だけでなく、読者側のハードルも下げている(やっと「読者」の話になってきた)。近年、電子書籍の販売数はうなぎ登りで特に漫画(コミック)の分野は電子書籍では最も売れているジャンルである。テレビCMがバンバン流れているので、それらのサービスを使っている人も多いことだろう。私の好きなお笑い芸人は自分の持っている紙のコミックをすべて売り払って、すべて電子書籍にしたと言っていた。私もKindleを利用しているのでわかるのだが、本で部屋が埋め尽くされることもなくなるし、目には悪いのだが暗い場所でも読めるし、なんと言っても読みたくなったらすぐに購入できるという点は紙の書籍より圧倒的に有利な点である。
活字が紙媒体からデジタルになったということだけでなく、ITは読書の活字を読むという形も大きく変えている。Kindleと同じくAmazonのサービスなのだがaudibleというのがある(Amazonによる各業界の革新は凄まじい!そりゃジェフ・ベゾスが世界一の富豪になるはずだ!)。このサービスは本を読み聞かせしてくれるというもので、他の会社からも同じようなサービスが提供されている。私はaudibleの他に audiobook.jp というサービスも利用している。これらは主に通勤の車の中で聴いているのだが、新しい情報を朝や帰りの車の中で手に入れられるのはとてもありがたい。今は「amazonのすごい会議」という本を聴いている。
もう一つ私が本に関して使っているアプリがある。flierというサービスで、話題の本やベストセラーの要約をしてくれる本である。読みたくなる本はたくさんあるのだが、家事や仕事で時間を取られ、さらに睡眠時間を確保したいお年頃なので、flierを使って読む本を精選し、面白そうだと思ったら本を購入している。
今や70代の人たちでも8割がスマートフォンを持っている時代である。読む(聴く)にしても、書くにしても本がITの影響を受けないことはあり得ない。こういった時代ならではの本との関わり方があるとは思うし、新しいサービスを利用することはいいことだと思う。私は職場でICTの導入を担当していることもあり、こういったサービスを積極的に利用するようにしている。そして今の私の教え子達が私の年になることには紙どころかスマホやパソコンさえ必要なくなっていると思う。だがそう思う反面、50歳を越えたの私はやっぱり紙の本の方がホッとするというのが本音だ。手元にペーパーバックの本があることに心落ち着くのは、私が古い人間だからなのか、それとも本が持つ重さや焼けた紙の風合いがそう思わせるのか、まだよく分からないが。
=「読者の言」原稿終わり=
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