きまぐれがき
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2003年03月09日(日) 哀悼...黒岩重吾

作家の黒岩重吾氏が亡くなられた。

氏の作品では古代史をあつかったものが好きだった。
歴史の授業で退屈きまわりなかった古代史の世界が、氏の著書
『天の川の太陽』『天翔る白日』『落日の王子・蘇我入鹿』などに
よってぐんと身近に感じることができた。

ハムレットのように文武にすぐれた見目麗しい王子が古代日本に
もいた。
その王子が悲劇的な死を遂げたとあっては、王子さまが大好きな
私としては読まずにいられるかと、最初に手にしたのが『天翔る
白日』だった。

陰謀渦巻く古代宮廷で、謀反の罪によって持統天皇に処刑された
大津皇子の物語だ。
濡れ衣であったにもかかわらず潔く散った薄幸の皇子と、氏や
歴史家たちは伝える。


 ニ人行けど行き過ぎ難き秋山をいかにか君が独り越ゆらむ

と詠んだ大伯皇女の歌は、弟大津皇子との最後の別れを歌ったもの
だと知られているけれど、こんなふうに短い生涯を閉じた弟への哀歌
なのだと、はじめてひめみこの心情が切々と胸に迫ってきたものだ。

ところが、「まぐわう」という言葉には途惑った。困ってしまった。
なんだか可笑しいのだ。
時は古代だもの、適切な言葉だと言われれば、そりゃあそうなんだけど。

奈良盆地から眺める夕陽は、大津皇子が眠る二上山に沈む。
美しい落陽の光の彼方に逝かれた黒岩氏に合掌。



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