オクラホマ・スティルウォーターから

2001年04月25日(水) 読書

 こっちに持ってきている数少ない日本の文庫本を読み始めた。最近はインターネットもあるけど、なんだか活字が読みたくなって読むことにした。たぶん以前も読んだのだろうが、内容を全く覚えていない。それで読んでいる本は岩波文庫の「漱石文明論集」である。これは漱石の講演や日記、書簡などをまとめたものである。講演は大正時代、日記は明治34年から45年までのもの、書簡は明治から大正にかけてのものである。
 講演は口語なので、大正時代でも難しくない。本にしおりがはさんであったのでそこから読みかけた。「私の個人主義」というタイトルで学習院で大正3年に行われた講演である。大正3年だから、明治が終わって大正に入ってすぐのころなので、約300年続いた江戸時代に比べると、西洋文明を取り入れて半世紀、まだ定着していない時代である。しかし、読み始めると、古ぼけた話題ではなく、今でもしっかり通用する話なのである。そうすると、結局、まだ日本には個人主義というのはいまだ定着していないのかもしれないと思ったのである。

 「第一に自己の個性の発展を仕遂げようと思うならば、同時に他人の個性も尊重しなければならないという事。第二に自己の所有している権力をしようと思うならば、それに附随している義務というものを心得なければならないという事。第三に自己の権力を示そうと願うなら、それに伴う責任を重んじなければならないという事。、、、もし人格のないものがむやみに個性を発展しようとすると、他人(ひと)を妨害する、権力を用いようとすると、濫用に流れる。金力を使おうとすれば、社会の腐敗をもたらす。随分危険な現象を呈するに至るのです。、、」

 当時は特にまだ社会的にも上下の差が激しかったので、学習院の学生は将来もっともそれらの力を持つだろうから「どうしても人格のある立派な人間になって置かなくては不可(いけな)いだろうと思います。」と述べている。

 自分の権利は主張するが、義務を伴っていない人、他人を尊重しないで人の足を引っ張る人。権力、金力濫用の政治家。今度の新内閣では是非、漱石の言う「個人主義」でやってもらいたい。


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