岩田くん。(仮名)
小学校の頃、好きな男の子がいましてね。 仮に名前を岩田くんとしましょうか。 岩田くんはそれはもう全女子のアイドルでしたの。 成績優秀、運動神経抜群、イケメン、学級委員、リーダー的存在。
クラス一番のガキ大将でさえ彼には一目置いていたし、とにかく 完璧だったのだ。私も類にもれず、彼のファン。
一度、男子が遊びで投げた石が、私の目のすぐ下に直撃したことが ある。ものすごい衝撃で、しかも眼球からほんのすぐ下のところ だったため目も開けられず、私は泣きながらその場に座り込んで しまった。
するとその岩田くんは、遥か向こうから颯爽と駆け寄り、みんなが オロオロするなか、さっと私の手を握り、保健室まで手を引っ張り 連れて行ってくれたのだ。まるで少女マンガの世界。 岩田くんがキャンディ・キャンディのアンソニーに見えたっけ。
その後クラス替えがあり、岩田くんとは離れ離れ。
私にも他に好きな人ができて、岩田くんのことは忘れてしまった。 しょせん岩田くんは高嶺の花。 あたしには転校生のSくんがいるわっ!ってな具合に。
中学にあがり、ますます彼とは縁遠くなった。 その頃から彼は、小学校のあの輝きが消えた。 誰もが認めるリーダーがリーダーではなくなった。
不良がカッコよくて、一生懸命なことが揶揄された時代。 彼は持ち前のあの責任感が、逆に自分の首を絞めたのだろう。 どんどん影は薄くなっていき、太り、ついにはどこの高校に行った のかさえわからないくらい、彼の地位は失墜したのだった。 噂でしかないけれど、彼はココロの病気になったと聞いた…。
-------------------------------------------------
今日、母があたしに話しかけてきた。
「今日ね、岩田くんのお母さんに逢ったよ」と。
うちの母と彼のお母さんはPTAを通じて、顔見知りだったのだ。 世間話をしたあと、岩田くんは今どうしているかと母は尋ねた。
まだ療養しているらしいのだけど、詳しいことは濁されたと言って いた。彼の輝かしい過去を知っているだけに、そんな彼に一時でも 淡いコイゴコロを抱いていただけに、なんだかとても切なくなった。
あたしの知っている岩田くんは、みんなのアイドルだった。 いつでもみんなの中心にいた。 彼はあの頃の自分に戻りたいと思っているだろうか。 それとも今の自分を認めようと必死なのだろうか。
秋だからかな、ちょっぴり胸が痛い。
|