unsteady diary
riko



 “Me Too”

私には、ある記憶の空白がある。

たぶん小学校に上がったばかりの頃。
従妹と母の実家近くで遊んでいた私は、畑や林しかないような田舎で、見知らぬ男性に声をかけられた。よく覚えていないが、猫撫で声で何かを言われた。生理的嫌悪と直感で危険を感じて、年下の従妹を先に帰らせた。
従妹を守らなければいけないと、何故だか強く思ったことは覚えている。
その先は途中までしか覚えていない。
とにかく気持ちが悪くて、なんで年端のいかない子供にこんなことをして愉しいのか、とにかく混乱していた。
その後、どうやって実家に帰ったのか全く覚えていない。
ただ、けっして大人に言ってはいけない、恥ずべきことをされたのだという認識は、うっすら持っていた。
あのとき先に帰らせた従妹が何を思ったのか、一度も聞いたことはない。
覚えているのかも正直わからない。
ただ、幼稚園の頃から容姿や性格を否定され続け自己肯定感の低かった子供にとって、自分を投げ出すには充分な事件だった。
顔も覚えていないあの男は、私を決定的に価値のないモノにした。
それから、変質者に遭遇しても痴漢にあっても、すべて自分が悪いんだとどこかで思うようになり、こんな底辺にいる自分にしか手が出せない可哀そうな人達なんだと、歪んだ嫌悪と同情を抱くようになった。
真っ当に愛されることが想像できなかったし、自分も愛せないと思った。

これが他人事ならば。
「あなたは何も悪くない、卑怯なのは変質者で、これは立派なPTSDなんだ」と言えるだろう。
でも自分自身にはそう言ってあげられない。

いつか吐き出したいと思っていた。
大学生の頃、一度書きかけたけれど、さすがに誰かに見られることが怖くてやめた。
もう誰も見ない今だから、そっと吐き出そうと思う。

子供を壊すのは簡単だ。
まっさらでやわらかくて、与えられたすべてを吸収して大きくなる。
毒を与えれば真っ黒になる。傷もそのまま飲み込んでしまう。
すべての子供が、大事にされる世の中なんて来ないことはわかっている。
でも、それを願うこともやめられない。

2021年07月17日(土)
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