トーキョー・ハッピーデイズ
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2002年02月08日(金)  「カワイイ」の境界線

 静ちゃんがミスをした。
 彼女がこのミスを侵すのは初めてではなく、同じことを5回も6回もしているのだ。
 ちょっと気を付ければ絶対に起こらないことなのに。
 3度までは仕方ない。
 でも4回を越えるとちょっとどうかと思う。
 彼女ももう2年もここにいるのだ。
 後処理が大変なのはわかってたけど、今回は助けずにおこうと思った。
 いつも誰かが助けてくれるものだという意識をもたれると、この先困るのは彼女自身なのだ。
 だから彼女が騒いでいるのを横目に、私は黙って自分の仕事を続けていた。
「市川さん、大丈夫? おれも手伝うよ」
 私と同期入社の加藤くんが、静ちゃんに助け舟を出した。
「加藤さーん。ありがとうございますー」
「うわ、こんなにあるのか。大変だなー。一人じゃとても終わらないよ」
「そうなんですよー」
 甘いよ、もー。
 静ちゃんの甘えた声を耳障りに思いながら、私は人知れずため息をつく。
「浅井ー、お前も手伝えよ。冷たいやつだな」
「冷たいやつで悪い?」
「かっわいくねー」
 どうせかわいくなんかないわよ。
 心の中でそうつぶやきながら、仕方なく手伝うことにする。

 静ちゃんはかわいくて、おまけに要領がいい。
 彼女以来、不況で新入社員は採用していない。
 だから彼女はいつまでもこの部署の中で一番若くてみんなにかわいがられている。
 私にも周りにかわいがられてた時期はあった。一応。
 だけど、いつまでも「かわいいから」「若いから」で許されることはありえない。
 そのことに彼女は気付いているんだろうか。
 こんな風に思う私はいかにも年くってるみたいですごくイヤなんだけど。


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