うさぎ日記
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2013年09月07日(土) 電話器



足かけ三年、毎週決まった日に母に電話をくださるかたがいる。
いつも電話に出るなり、私の挨拶をさえぎって
「お母さんに変わって!」と、言われるかたが、先日珍しく、
「お母さんではなく、あなたに話がある。」
と、言われる。

そのかた「考えたんだけど、お母さんもこれからはだんだん足も弱って、電話のところまで歩いてこれなくなると思うのよね。
あなたのところの家の中の様子は知っていけど、お母さんの居られるところからから電話の置いてあるところまでは遠いでしょう。
あそこから電話まで歩くのは大変でしょう?
これからお母さんの足も弱って、電話に出て転んだりされるといけないので、私も考えたのですけど・・・」
 
 (だから電話はもう止めるという話なのかと聞いていたら)

「私も考えたのですけれど、世の中には、子器付き電話というものがあるから、あれを買われたら良いと思って・・・。
私もね、電話の向こうから聞こえて来るコツコツという杖の音を聞くと、ああ、お元気でいられる。と思っていたんで・・・。
それが聞こえなくなるということはあるけれど・・・。
いえ、ね。あなたが私からの電話は迷惑だというのなら、もうやめるけど、これからも、ということなら、どう?」

と、いうことで近くの大型家電店で新しく電話器を買った。
早速、愛の電話がかかって来た。
が、母は差し出された受話器をもう電話するものだと認識できずテーブルに置いて弄び出した。
あわてて取り上げて
私「もしもし、電話器が変わったら、もう電話だって解らないみたいなんですよ。」
相手「え!(息を呑む気配)そんなことー?!」
私「もう一度やってみますね。」

私は、あらためて「川上さん(仮名)から電話だよー。」と今度は受話器を母に渡さずに、母の耳に当てた。
受話器から聞こえる声に反応して、時折頷くものの、母の口から声はでない。
一方的に、川上さんが話す声が受話器から漏れて来る。
そのうち、母が「ありがとうね。」と、言った。
それをきっかけに川上さんは電話を切ったらしく、受話器からはツーツーという信号音が漏れ出した。

母が認知症になって以来、いろいろなことを気付かされる。
誰かのために何かしたい。
という気持ちの中には、幾分かは自己愛というものも交じっているものなのだ。と。
振り返れば私もまたそうなのだ。と。


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