空色の明日
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年末29日、指揮者の朝比奈隆さんがお亡くなりになりました。 93歳、現役。 毎年、年末の大阪フィルの「第九」の指揮をしていたのに 今年はご辞退なさったので「あれ?」っと思っていたのですがやはり。
もちろん私は「第九」なんて聴きに行ったこともないのですが、 実はこの朝比奈隆さんには特別の思い出があります。
私が社会人1年目、秘書をしていた時のこと。
秘書の業務の中に、「秘書室の受付」という仕事がありました。 2時間交代で1人で受付に座るのですが、この業務は実はとっても重要。 3つあった応接室にそれぞれのお客を振り分ける。 あまり好ましくないお客様は入り口近くですぐ出せるように、 重要なお客様は他のお客様と接触しないよう奥の部屋へ通します。 その振り分けをお客様のお名前から判断しなければなりません。 しかもよくお越しになる方は、ご自分の名前を名乗られない場合があり、 新人の私はそういう方のお顔もわからないわけで、はじめの半年近く ドキドキしながら座っていました。
そんな私がお迎えした初めてのVIPが、この朝比奈隆さんだったのです。
実は朝比奈隆さんは、私の勤めていた会社の元社員。 といっても5年も勤めてなかったはずですが…。 地元大阪フィルに携わってこられたので、関西では大企業と言われる その会社とは退職後もいろいろと繋がっていらっしゃったのでしょう。
さすがに私も朝比奈隆さんのお顔は何度も新聞やTVで拝見していたのですが その日の朝比奈さんは、タキシードでもスーツでもなく ラフなポロシャツとジャケット。 薄暗い照明に毛足の長いカーペットの重厚な雰囲気の受付に 「朝比奈です。」と軽やかな声で現れた姿はとても80代とは 思えぬ、爽やかな風のようでした。
こうしてドキドキの私の初VIPは朝比奈隆さんとなったわけです。 秘書をしていた数年間、たくさんの有名な方にお会いしましたが 一番初めにご案内した彼の現れた時のことは今でも忘れません。
どんなに有名になっても、あの爽やかな風のような軽やかさをまとった 彼のナチュラルな姿を愛してやまなかった人は大勢いたでしょう。 TVや新聞からはわかりえなかった、そんな風を感じられたことに あの仕事をして本当によかったと思います。
そんな朝比奈氏が「第九」のように12月29日ひっそりと 彼の音楽人生の指揮棒の最後の一振りを終えられました。 風のように雲の上を音と共に流れていらっしゃることでしょう。 心よりご冥福をお祈りいたします。
安藤みかげ
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