紫
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「ちょっと散髪に行ってくる」
父が玄関で靴をはいていました。
「ええーっ、カッコ悪いからやめて」
母が父を止めていました。
カッコ悪い?
散髪が??
たしかに父の髪質は硬くて、髪の毛一本一本が好きな方向に向いていて、白髪と黒い髪がまざっていて、カッコいいとはいえません。
でも、このまま伸ばしていくとますますカッコ悪くなることは間違いないでしょう。
散髪、いいじゃないですか。
「もう、カッコ悪いわ」
母が私の部屋をのぞいて言いました。
「はさみ持って行ったんよ」
「え? はさみ?!」
父は、愛用のはさみがあって、それで散髪屋さんに切ってもらおうというのか。さすが父……。
と思いきや。
「今日は散髪は外でするんだって。洗面所ですればいいのに」
なんと父は、自分で髪を切るために、マンションの下の芝生まで、行ったようです。
……。
たしかにカッコ悪いかも。
でも、もうおじいさんと言える年齢の父が、ハサミを片手にふらふらと歩いている姿に、誰かが警察に通報しないかどうかのほうが、かなり心配。
「ふぅー、さっぱりした」
15分後、玄関から聞こえてきた父の機嫌のいい声に、そっと胸をなでおろしたことは、父には言っていません。
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