SS‐DIARY

2019年12月24日(火) (SS)クリスマス休戦


23日に勃発した大喧嘩は24になっても衰えを見せず、とうとう25日まで持ち越した。

今までイベント時期に喧嘩をしたことが無いわけでは無いが、なんとなくお互いに『せっかく誕生日なんだから』、『バレンタインを喧嘩で終わるなんて』等々譲歩して、気まずいながらもそれらしいことをやって来た。

しかし今回に関してはどちらも一歩も引く様子が無く、ツリーを飾るどころか、アキラに至っては十二月に入ってすぐに玄関ドアに飾ったリースを取り外すまでに至ってしまった。

つまりそのくらい腹に据えかねていたのだ。

けれど、同時にどちらも相手が少しで良いから不機嫌さを納めてくれれば良いと思っていた。

街中はクリスマスの装飾で溢れ、クリスマスソングが流れまくっている。

棋院の一階にさえ大きなツリーが飾られて、棋士達もそわそわとクリスマスの予定などを話したりしている。

それが、ヒカルとアキラだけはムッツリと押し黙り氷のような空気を醸し出しているのだ。

あいつらまた喧嘩してるのかと、周囲はそう思うだけで仲裁をするような馬鹿なことはしない。触るな危険、うっかり関わるとロクな目に遭わないことがわかっているからだ。

なので、誰も取り成す者も無いまま、とうとう二十五日の夜になってしまったというわけで、表面には出さないけれどヒカルもアキラも苛々していた。

(どうして折れてこないんだあの馬鹿っ!)

(進藤の意地っ張り! これじゃプレゼントも渡せないじゃないか)

胸の中で思うばかりで時刻はどんどん過ぎていく。

まんじりともしないでリビングで面白くも無いバラエティ番組を見ていたヒカルが、十二時十分前にいきなり立ち上がった。

「どうした?」

微かな期待を込めながら、アキラがぶっきらぼうに尋ねる。

もしやこれからでもコンビニにケーキでも買いに行くのかと思ったからだ。

「アイス」

「え?」

「アイス食うだけ! 関係ないだろおまえには」

吐き捨てるように言われてアキラの目が吊り上がる。

「悪かったな。勝手になんでも食べればいいよ」

そういえば確かに冷凍庫の中にはハーゲンダッツのミニカップが一個だけ残っていたような気がする。

それを取りに行ったのかとアキラは心底落胆した。

(進藤の馬鹿、今ならまだクリスマスなのに)

意地の張り合いが過ぎて、二人は夕食を食べていない。もちろん負けたような気持ちになるのでチキンもオードブルもワインも何も買っていない。

炊飯器すら使っていないのだから双方共に徹底している。

それでもさすがにわびしい気持ちになって、じわりとアキラが涙ぐんだ時、目の前のサイドテーブルに、ことりとハーゲンダッツとスプーンが置かれた。

(食べるなら食べるで見えない所で勝手に食べればいいのに)

見せつけるように食べるつもりかと本当に泣きそうになった時、ヒカルがはす向かいに座って言った。

「食おうぜ」

「え?」

「一個しかないから半分な。代わる代わる食えばいいだろ」

意味を測りかねてきょとんとヒカルを見つめると、ヒカルはバツの悪そうな顔で言った。

「こんな・・・クリスマスなのになんにもないのって寂しいじゃん。せめてアイスくらい食おうぜ」

一緒にと言われてぽろりと一粒涙がこぼれてしまった。

「こんな、今頃!」

文句を言いながらアキラはカップの蓋を取る。

「しゃーねーだろ、おまえぷんすか怒ってるし」

「それはキミが悪いから」

言いながらヒカルが最初の一口目をスプーンですくってアキラの口の中に入れる。

「おまえも悪いって、クソ頑固だから」

「ぼくが頑固ならキミは石頭だ!」

アキラはヒカルを睨みながら、先ほどヒカルがしたようにアイスをすくってヒカルの口の中に入れてやる。

「・・・美味いな、これ」

「冬の限定品みたいだからね」

「じゃあ、ギリクリスマスやったことになるな」

初めてヒカルがニッと笑った。

「随分と寂しいクリスマスだけどね」

「だったら食うなよ」

言いながらまたアキラにアイスを食べさせる。

「嫌だね。ぼくはハーゲンダッツは好きなんだ」

「買ったのはおれだぞ?」

「そうだったかな」

返しながらアキラもまたヒカルに一口食べさせてやる。


時刻はゆっくりとクリスマスを超えて行く。

けれど十分前から開始された二人だけのクリスマスは、罵倒と愛情を繰り返しながら必要以上に長く、カップの底が空になっても続けられたのだった。






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