SS‐DIARY

2019年04月01日(月) (SS)四月とバカ達


唐突にアキラがぼそっと言った。


「キミなんか大嫌いだ」


盤の向こう側に居たヒカルはちらりと視線を上げると「おれもおまえなんか大嫌いだね」と言い放つ。


「顔を見るだけで胸がむかつく。出来るだけおれの前にそのツラ見せるなよな」

「そっくりそのまま返すよ。ぼくもキミの顔なんか見たく無い」


月曜日、芹澤九段の研究会でのこと。室内に集まった棋士達はしんと静まり返った。


「あーあ、まったくムカつくったら、なんでこの世にお前みたいなムカつくヤツがいるんだろうな」

「キミほどぼくを不快にさせる人間もいないけれどね」


バチバチと火花が散りそうな言の葉の応酬である。


「あー、進藤くん、塔矢くん…キミ達喧嘩をしているのかね」


見かねた芹澤が尋ねると「いえ?」「別に」と二人とも驚いたように返した。


「喧嘩なんかしていませんよ。ただ、あまりにも進藤の存在が不愉快なので」

「塔矢の何もかもが最悪なんで」


取り付く島もない無いと芹澤は追求を止め、他の物も触らぬ神に祟りなしと二人から離れて行った。


「ほら、おまえがくだらないことばっか言うから、みんないなくなっちゃったじゃん」

「キミのせいだろ、おかげで助言が貰えなくて迷惑だ」


結局、研究会終了まで二人の言い争いは続いた。

皆は一体あの二人に何があったのだろうかと影で噂をしていたが、ただ一人たまたま誘われて参加していた和谷だけはよく理解していた。

四月一日。

今日はエイプリル・フールなのだ。


「ほんと、あのバカっぷる」


ヒカルとアキラは口論と見せかけて、その実皆の前で盛大にのろけ合っていたのだった。

それが許される一年にただ一度の日。


「大概にして欲しいよな…まったく」


毎年被害を被ることが多い和谷は深いため息をついたが、それでも友人想いであったので誰にも種を明かすことはしなかった。


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しょうこ [HOMEPAGE]