SS‐DIARY

2017年04月08日(土) (SS)春の出来心



「お客様」


カウンターでぼんやりと物思いに耽っていたぼくの目の前に、店員がコトリと小さな皿を置いた。


「あちらのお客様からです」


言われて驚いて顔を上げ、指された先を見てみると、少し離れたテーブル席に進藤が居てぼくを見てニコッと嬉しそうに笑った。

皿の上には木の芽色のうぐいす餅が一つ。


「しん―」


声をかけようと思った瞬間、手元に置いておいたスマホに着信があった。


『びっくりした?』

『おれ、一度これやってみたかったんだ』


へへへと笑い声が聞こえるような文字の羅列に思わず笑う。


『そうか』

『確かに驚いた』


そしてぼくは店員を呼ぶと、目の前のカップを指さして言った。


「あちらに、これと同じ物を」


カップの中身はミルクたっぷりの抹茶ラテ。彼がぼくに奢ってくれたうぐいす餅にそっくりな色合いだ。

きょとんとしている進藤は、目の前にカップを差し出され、店員に囁かれてぱっと満面笑顔に変わった。


『うわ、やられた』


やるもやらないも、そもそもぼく達はこの和カフェで待ち合わせをしていて、先に仕掛けて来たのは進藤の方なのに。

くすくすと笑いをかみ殺しながらぼくは彼にメッセージを送る。


『ぼくもね、前々から一度これをやってみたかったんだ』


そしてぼくはカップとうぐいす餅の皿を手に取ると、彼の居るテーブル席に笑いながら移動したのだった。

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これをバーのカウンターでやってはいけないんですよ。
和カフェでやるのがいいんです。


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