「お客様」
カウンターでぼんやりと物思いに耽っていたぼくの目の前に、店員がコトリと小さな皿を置いた。
「あちらのお客様からです」
言われて驚いて顔を上げ、指された先を見てみると、少し離れたテーブル席に進藤が居てぼくを見てニコッと嬉しそうに笑った。
皿の上には木の芽色のうぐいす餅が一つ。
「しん―」
声をかけようと思った瞬間、手元に置いておいたスマホに着信があった。
『びっくりした?』
『おれ、一度これやってみたかったんだ』
へへへと笑い声が聞こえるような文字の羅列に思わず笑う。
『そうか』
『確かに驚いた』
そしてぼくは店員を呼ぶと、目の前のカップを指さして言った。
「あちらに、これと同じ物を」
カップの中身はミルクたっぷりの抹茶ラテ。彼がぼくに奢ってくれたうぐいす餅にそっくりな色合いだ。
きょとんとしている進藤は、目の前にカップを差し出され、店員に囁かれてぱっと満面笑顔に変わった。
『うわ、やられた』
やるもやらないも、そもそもぼく達はこの和カフェで待ち合わせをしていて、先に仕掛けて来たのは進藤の方なのに。
くすくすと笑いをかみ殺しながらぼくは彼にメッセージを送る。
『ぼくもね、前々から一度これをやってみたかったんだ』
そしてぼくはカップとうぐいす餅の皿を手に取ると、彼の居るテーブル席に笑いながら移動したのだった。
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これをバーのカウンターでやってはいけないんですよ。 和カフェでやるのがいいんです。
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