| 2012年02月14日(火) |
(SS)フェチかもしれない |
「なあ、へそ、見せてくんない?」
唐突に言われて意味がわからなかった。
「え? 何?」 「だから、おまえのへそ見せてくれって言ってんだよ。へそ」
そこは碁会所で、たまたま今はお客さんが少なくて、でもだからってこんな所でいきなり肌を出すわけにはとか、そもそもどうして進藤におへそを見せなければいけないんだと、ぐるぐる考え込んでしまった。
「早くしろって、早く。市河さんがこっち戻って来ちゃうじゃん」
市河さんはちょうど奥の方の席のお客さんにお茶を出しに行った所だった。
「あーっ、もう、おまえって本当にトロいよなあ」
苛立たしそうに罵られ、仕方無く服の裾をそっと持ち上げる。
「これで…いいのか?」 「って、それじゃ腹しか見えないじゃんか」
へそはもっと下だろうと言いながら、進藤は机の反対側から身を乗り出して来て、ぼくのズボンを指で少しだけ下に押し下げた。
「あ、カワイイ。やっぱおまえのへそカワイイなあ」
そしてあっと思う間に、ぺろりとぼくのへそを舐めると、また元の位置に戻 ってしまった。
「………え?」 「さ、続き打とうぜ。次おれの番だっけか」
碁笥に指を入れ、じゃらりと石を鳴らせながら可笑しそうにぼくを見る。
「いつまでそのまんまで居るん? 風邪ひくぜ」
大体、恥ずかしげも無くこんな人前で肌を晒しているなよなとまで言われてぼくはキレた。
「だっ………だってキミが見せろって言うから!」 「うん、まあ見たかったからさ」
だから見せて貰えて大満足と、そしてにやっと笑われた。
「ごちそーさん。今はまあこんくらいで許してやるよ」
いつかもっとたくさん見せて貰うつもりだからと、そして何事も無かったように盤に集中し始めたので、ぼくは彼の頭を思いきり殴りつけてしまった。
「そんなわけのわからない理由で人のへそを舐めるなっ!」
飛び散る碁石と、こぼれたお茶と、へらへらと笑う進藤の反省の欠片もない笑顔。
恥ずかしさと腹立たしさとごちゃ混ぜな気持ちと一緒に全部忘れず覚えている。
それがぼくが自覚無しに彼に贈り物をした、17歳のバレンタインだった。
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