| 2008年02月22日(金) |
(SS)2月22日はねこの日 |
【ねこの日】
「おはよう、塔にゃ」 「お…おはよう進藤……」 「だめにゃ!昨日、ちゃんと語尾に『にゃ』をつけて喋ることって決めたじゃにゃいか!」
それともおまえは一度決めたことを簡単に翻すのか、そういう人間だったのかと「にゃ」付きで、けれど厳しく問いつめられてアキラは観念した。
「わ……わかった……にゃ」 「ぐわっ、すっげぇ可愛い!――にゃ」
にこにこと嬉しそうにはしゃぎまくるヒカルとは逆にアキラは茹でたように赤い顔で唇を噛みしめると耐えるように俯いてしまった。
軽く飲みながら始めた賭け碁、酔っていたこともあってヒカルが持ち出したのは『負けた方が翌日一日語尾に「にゃ」をつけて話すこと』だった。
「なんでそんな馬鹿みたいなことを!」
当然アキラは猛烈に反発したけれどヒカルが言うには翌日の2月22日はにゃんにゃんにゃんで猫の日ということになっているので別におかしくは無いというのだった。
「…でも、だからって語尾にそんな…」 「別に負けなければいいんじゃん!あ、それともおまえ自信が無いんだ!」
最初から負ける気満々だからそんなに不安がっているんだなと言われて今度は別の意味でアキラは反発した。
「なんだと失礼な! ぼくがキミに負けるわけが無いだろう」
キミの語尾に『にゃ』をつけて差し上げるよと俄然燃えて受けて立った。けれどこういう時のヒカルは神懸かりな程強く、結果アキラは一目半で負けてしまったのだった。
「へへへ。らっきー♪じゃあおまえ、明日は一日語尾に『にゃ』をつけて喋るんだぜ」 「待った!」 「なんだ往生際が悪いなあ」 「もう一回、もう一回だけ打たせてくれ!それで負けたならぼくも潔く賭けの条件を飲むから」 「えー?どうしようかなー」 「それともキミ、もしかして自信が無いのか?ぼくに負けるのが怖いからそんなに勿体つけているんだろう」 「なんだと!おまえに負けるわけ無いじゃん!」
何度やったって絶対におまえに勝ってみせると啖呵を切ってしまったヒカルは結局もう一局アキラと打つことになり、結果今度は見事にアキラが勝ったのだった。
「えーと…」 「賭けは賭けだよね」
キミも明日は丸1日、語尾に『にゃ』をつけるようにと言われてヒカルは仕方なくそれを飲んだのだった。
そして運命の翌2月22日。
起きた時点で既に後悔一色のアキラとは逆にヒカルは喜色満面だった。
「…なんでそんなに嬉しそうにゃんだ、キミは恥ずかしくにゃいのか?」 「恥ずかしいよ? でもそんなことより、おまえの『にゃ』が聞ける喜びの方が何百倍も勝ってるんだにゃ♪」
しーあーわーせーとにこにこと上機嫌のヒカルとため息をつきつつ朝食を食べ、着替えて出かける段になってアキラははたと気がついた。
「進藤、外でもこのしゃべり方でにゃければいけにゃいのか?」 「当たり前だろう。にゃんのためにわざわざ賭けたと思ってんだよ」 「でも、外でこんにゃしゃべり方をしていたら気が触れたかと思われるにゃ………」 「そうかー」
それはさすがにマズイにゃとヒカルも考え、結局二人してマスクをし、風邪ということにして通そうということに決めた。
「そうだね、それならこんな恥ずかしい言葉を聞かれにゃいで済む」 「でもせっかくおまえ超絶可愛いのに勿体にゃいからメシん時とか家に居る時とかは『にゃ』付けで話すこと!」 「わかったよ。それくらいならなんとかぼくにも我慢出来そうにゃ」
そして出かけた日本棋院。
アキラの対局相手はヒカルで、久しぶりに公式で打てることに高揚したアキラは賭け碁と馬鹿げた罰ゲームのことを一瞬忘れた。けれどすぐにそれを思い出した。
碁盤を挟んで向かい合い、背筋を伸ばして見つめ合った後、頭を下げてついこう言ってしまったからだ。
「お願いしますにゃ」
一瞬しーんと静まりかえり、妙な緊張で満たされた洗心の間で、真っ赤な顔でいっそ死にたいというように俯くアキラとは逆にヒカルは機嫌良く満面笑顔で言ったのだった。
「お願いしにゃす!」
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